aromascape

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「おい葵。カウンターの奴がお前を見てるぜ」 一緒に飲んでいた豊に言われて僕はグラスから目を離した。 豊が顎で指した先に、彼がいた。 サラリーマンだろうか。暗い色のスーツに身を包み、独りで飲んでいる。 そういえば以前にも見たことのある顔だ。 彼はこちらを見ていたが、僕が視線をやると目を背けてしまった。 「気をつけろよ、葵。お前を狙ってる奴はワンサカいるんだせ」 豊は面白そうに笑って見せつけるように僕にキスをする。 さっきの彼はこちらをまだ見ているのだろうか。 *** 豊と僕がこのゲイバーに来るようになって2ヶ月。 煙が充満する室内と、落ち着いたマスターの選曲のジャスが心地よくて通っている。 もっぱら、豊は新しい子を漁りにきているけど。 豊とは別のバーで知り合った。 そのバーは「普通の」バーだったのだけど… 『アンタ、男にしては美人さんだな。なあ俺のアクセサリーにならない?』 初対面でそんな事を言われてさすがの僕も、面食らったのだけど何故かついていってしまった。それからの腐れ縁。 豊はいつも僕の前で新しい子を「物色」しては持ち帰りする。 相手の子は僕に恐縮しながらも、豊と帰って行くのだけど。 実は、僕も豊もお互いにお構い無しなんだ。 だってアクセサリーは嫉妬なんかしない。 ただの持ち物だから。 豊は困った奴で、僕にちょっかいを出して来る男たちにワザと自分の所有権を主張するかのように、目の前でキスをしたり身体を触って来る。 大抵のヤツは豊を恐れて、僕と話をする前に逃げてしまう。 (じぶん)は相手を作るのに、僕には作らせない。 それでも僕は構わない。他人と関わるのが苦手な僕はこれが心地よかった。 …彼に出会うまでは。 *** カウンター越しに見ていた彼は翌日もいた。 そしてまた、僕の方を見ている。 色んな煙草の煙が混じる空間で、彼は僕を見つめる。 いままでにも見られていた事はあったけど、ここまで明らかさまに見つめられ続けている事は今までになかった。 頭の先から、脚の爪先まで。 ずっと観られている。ネットリとした視線。 僕は完全に視線に絡め囚われている。 まるで、視姦(しかん)だ。 彼の視線を独り占めしている優越感。 そして絡み付く視線に、僕は完全に欲情していた。
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