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ヒイラギ
誘われていても、どことなく感じるこの棘は何だ。甘い誘いのはずなのに痛みを感じてしまう。それでも疼いてしまう自分は何だ。
「ん、アッ…」
誘われて断る理由など、何処にもなかった。ずっと触りたかった葵がそこにいた。
「もっと声出しなよ。そういう店でしょここ。トイレでヤッてたって誰も気にしないよ」
上目遣いに津田に語りかけて、自分の髪をかき上げると再び、葵は津田自身を口に含む。
あの後、酒を飲んでいたフロアからトイレの個室に移動し、乱暴にキスをした。どちらともなく、舌を絡めながら。
「はッ…おまえッ」
高揚しながら津田は葵の頭を抱えていた。
「いいよ、まずはイっちゃってよ」
「あ…ああッ!」
挑発してくる葵の声に、津田は思わず果てる。葵の口元からタラリ、と受けとめられなかったモノが流れる。肩を上下に揺らしながら、津田はぞくりとする。こんな時ですら、葵が「美しい」と感じた。
「ね、オレで想像しながら抜いてた?」
少し微笑みながら葵が津田の頬を撫でる。その手は先ほどよりも明らかに熱を帯びている。
「…そうだ」
「オカズにされてたんだね、オレ。…ねえ、アンタの名前聞いてなかった。なんて言うの」
「弘之」
口を拭って葵は津田に抱きついた。少しの汗の匂いと煙草の香り。果てたはずの疼きが、止まらない。
「入れてよ、ひろゆき」
気がつくと葵の頬も、高揚していた。どう言うつもりで葵が自分に近づいて来たのか、思案する時間もなく身体を重ねていた。
浮気現場を見せつけられた、豊への当て付けか。
自分に好意を持っているであろう人間への冗談のつもりか。いずれにしろ、津田にとっては「棚ぼた」だ。理由を聞いている間に醒めてしまうなら、醒めないうちに触れていたい。
「んッ…あっ、あ…」
無表情の顔しか知らなかった葵の喘ぐ声に、津田はもう堪えきれない。
「もっと奥、突いてもいいか」
葵の背中を見ながら津田が耳元で囁いた。その背中と腕に、うっすら斑点があることに津田は気づく。
「なに、言って…あっ、それっヤバ…ッ」
葵の答えを待たずに、津田が思い切り突いた。
「ひ…ああ…ッッ!!」
**
事が終わって、フロアに戻った二人はお互いに酒をオーダーして一息つく。初めの無表情からは幾分か和らいだ葵の顔を、津田は眺めていた。そして酒がだいぶ回ってきた頃。
「お前、あいつからDV受けてねえ?」
津田が不意に聞いた。最中に見た、背中と腕の赤い斑点。それは殴られた後と、煙草の火を押し付けられた痕だ。
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