aromascape

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「葵」 豊に話しかけられて、ハッとする。 「何?ああ…」 気づくと隣に新しい子がいた。 今夜のお持ち帰りはその子なんだね。 そろそろこのやり取りも、面倒だ。 アクセサリーで居続ける必要も、もうないのかもしれない。 豊が僕を置いて新しい子と店を出る。 僕はテーブルの上に残されていた豊のマティーニを飲み干した。 不意に視線を感じてカウンターの方をみると、彼がまだこちらを観ていた。 少し驚いたような顔をしていたのは、豊が僕を置いてあの子と出ていったからだろう。 僕は乾いていた唇を、舌で舐めた。 彼に触れたいと、思ったのだ。 煙の中の彼に近づき、彼の瞳を間近に観た。 豊と違う外国産の煙草の香りがする。 「初めから、俺を見ていたよね」 彼にそう話しかける。彼は硬直したまま、動かない。 いつも見られていた瞳。 触れるなら、今だ。 彼の手をとり、店のトイレに向かう。 「あ、あの…ッ」 彼は驚いた様子で僕に話しかける。 それには答えず、僕は彼をトイレの個室へ放り込む。 「…ねえ、そんなに僕が気になる?」 「へ…」 「いつも見ていたでしょ?僕のこと」 「…」 彼は顔を赤らめて何も喋らない。 あんなにネットリとした視線を送るくせに… 僕は、また自分の乾いた唇を舐めた。 そして彼にキスをした。 「ん…ッ」 ふっくらとした唇の感触。もちろん触れるだけのキスなら、いらない。 「ねえ、口を開けて」 一旦口を離し、もう一度キスをする。 彼はおずおずと口を開いた。そこに僕はすぐさま、舌を入れる。 「う、んんッ」 舌で口内を(なぶ)る。僕の舌に、遅れて彼の舌が絡んできた。 絡みついた舌の感触にゾクリとする。 彼の目が、トロンとして僕を映し出す。 チュクチュクと淫らな音が響く。 口を離すと、もう僕らは止まらなかった。 何度も何度も、舌を絡めて。 これから始まる行為の予感に頭も身体も痺れて、疼いてたまらない。 喘ぐ彼の口に、僕は舌を入れる、 「ん、はアッ…」 彼は強く僕を抱き締めた。 もう豊のアクセサリーは卒業だ。 彼は完全に僕にハマるだろう。 そして僕も彼に…、完全にハマってしまったから。 【了】
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