終着点

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[六]  あの日の事を、今でも思い出す。  久しぶりに見た長髪が風に揺れ、チーシャオの隣に立っていた。  ああ、彼は確かに、彼女を助けてはくれていたのだ。  それを遠目に見れただけで、黒い雨が変わった事が分かって。  窓の外には、雨が見える。更に奥には、暁闇街も。  あれから、殆ど外には出ていない。本部でひたすら、仕事をするだけ。  期待した自分が、馬鹿だったのだ。期待してしまった自分が、ふざけていた。  今よりも、ずっと良い未来が、手を伸ばすだけで届くだなんて。そんな、妄想をするなんて。  なんて身の程知らずだったのだろう、と。  そんなふうに、後悔もしてしまうけれど。  ――動いたおかげで、少しは変われた。 「……仕事の時間だ」  そう呟き、ポケットから潰れた箱に入ったサルミアッキを取り出す。黒い塊を放り込んでも、もう不味いとは感じない。  ――雨はやまなかった。  だが、雨の強さは変わらなくとも、雨の色は変わっている。  それは、動く前よりもずっとマシな雨で。この雨がやまない限り、彼らを少しでも守れるとするのならば。  雨がやんで欲しいとは、もう思わなかった。
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