その笑顔、俺にちょうだい。

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そして、あっという間に土曜日になった。 今日は葉乃と兄貴がデートする日。 朝早くに目が覚めてしまった。 葉乃と兄貴はどこに行くんだろう。 どんなデートをするんだろう。 あー、やめやめ! 好きな女の子の恋路を邪魔するなんて嫌だし、とっとと諦めよ。 そう思ってたのに。 「お邪魔します」 兄貴は葉乃を連れて家に帰ってきた。 「なんで?」 「話の流れで」 兄貴は葉乃を家の中へ案内する。 なんで家になんか連れてくんだよ。 俺はすぐ自分の部屋へ行った。 2人のイチャイチャを間近で見るなんて、拷問以外の何ものでもない。 自分の部屋で、普段は絶対しない勉強を始めた。 隣りの部屋の扉が閉まる音が聞こえる。 最悪だ。 初めてのデートで葉乃を部屋に連れ込むなんて…。 「くそっ…」 俺は何も聞こえないようにヘッドホンをしてシャープペンをはしらせる。 何も聞こえない。 何も聞きたくない。 俺はこれを機にがり勉になるんだ。 恋愛?なにそれ、シラナイ。 「勉強?えらいね」 ヘッドホンをしていたはずなのに、すぐ近くで声が聞こえて。 びっくりして振り返ると、葉乃が超至近距離にいた。 「わっ!!」 「わっ…!」 俺がびっくりして出した声に、葉乃もびっくりした様子だった。 「大きい声出してごめん」 「私の方こそ、急にごめんね。 何回か呼んだんだけど」 「え、」 ヘッドホンしてるから全然気づかなかった。 いつの間にか俺のしていたヘッドホンは葉乃が持っていた。 てか、 「なんでここにいるの? 兄貴の部屋隣だけど」 「知ってる」 なんだよ。 何なんだよ。 「冬夜さん、急にバイト入ったからって、帰るように言われて…」 「じゃあ帰れば?」 あーあ。 今の俺の言い方、めちゃくちゃ感じ悪い。 「あのね、相談なんだけど…」 また兄貴のこと? 「…なに?」 「冬夜さんって、私のことどう思っているのかなーって。 何か聞いてない?」 「…」 本当に兄貴のこと好きなんだろうな。 くそっ。 なんで葉乃の好きな相手は俺じゃないんだ。 「なにも聞いてない」 「そっか、もしよかったら、それとなく聞いておいてくれないかな…なんて」 「そんなの無理だよ」 「へ?」 もう無理。 限界だ。 「お前さ、男の部屋に入るってどう言うことか分かってる?」 「え?」 無防備にのこのこ俺の部屋へ来やがって。 諦められるもんも諦められなくなる。 「咲斗、なんか怒ってる?」 「兄貴なんて辞めて、俺にしろよ」 俺は椅子から立ち上がって、葉乃を強く自分に引き寄せていた。 「え…どうしたの…?」 「なんでよりによって兄貴なんだよ…」 思わず葉乃を抱きしめる腕に力が入る。 何やってんだ俺。 こんな事したって、葉乃の気持ちは手に入らないのに。 「俺じゃだめ?」 「えっと…」 ほら葉乃が困ってんじゃん。 自分の行動につくづく嫌気がさす。 俺は抱きしめていた葉乃からそっと離れた。 「お前、もう帰れ」 「ねえ、今のなに…?」 「うるさいなー! もう兄貴の相談のれないから。 二度と俺に関わらないで」 俺の言葉に戸惑いながらも葉乃は部屋から出て行った。 「あー…」 こんなはずじゃなかったのに。 くそっ。
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