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ラジオ光年僕の声
食卓で、母さんの目玉焼きには塩コショウが夜空の瞼を貫通した銀河系ほど振られている。
星みたいだね。
言おう。
母さんはロマンチストだ。エプロンの紐でマジックをみせてくれるかもしれない。
指をスルっとすり抜けるやつ。
母さんは手品に手品で返すことをしない。
母さんは、塩コショウの例えに星を持ち出した馬鹿者に手品をくれる母さんだ。壊れた両替機みたいでワクワクする。
――星みたいだね。
チューニングを操作して、的確に言葉を拾った。
できっこないと思うでしょう。
ラジオのチューニングを操って偶然の言葉を拾い、思いに重ねるなんて。
キリンの首にもそう思いますか。
――塩コショウ派を馬鹿にするのね? よっしゃ、その喧嘩買いました。目玉焼きに醤油派のコタロー君。
おかしな具合に僕の期待したエプロン紐マジックは母さんの気焔に姿を変えた。
一個のラジオを服の中で操作して、僕と母さんは口を咀嚼に忙しくフル使用する。
僕らは声をもう、忘れている。
空気が言葉の伝達を拒んでから、死んだ星の光は、何度本当の死を迎えたろう。
――半熟の黄身に紫弱黒強の液体が傷口にシミルみたいにみえるわね。カバの化膿した足の裏でそんなのをみたわよ。伯父さんは動物園の飼育員だったの。幼稚園の私に得意気にみせたのよ。
母さんの右手がラジオ光年を駆けて、言葉を繰り出す。全ては過去のラジオ音声と、現在オンエア中のラジオ放送から聞こえる声だったが、オンエア中の言葉もまたいつかのラジオ音声なのだから、全てはつまり、過去のラジオ音声なのだ。
――星みたいだって、褒め言葉だったのに。いや、そうでもない、ただそう思って言っただけなのに。
ダイニングテーブルの下、手と手、繋がらない手の短い距離をラジオが埋めた。
うちのラジオはオレンジ色のボディーにAM、FMをチェンジする摘まみが小さくあって、でかいダイヤルはラジオ光年を泳ぐためのビート板か足のフィンか。数字の表示を赤いラインが僕の思いになって追い越し、追い越された。
――なんだ。第三期反抗期かと思っちゃった。
母さんの声はおじさんで、おばさんで、少年で少女だ。思っちゃった。の部分が空気を含み過ぎた少女性の強い声だったから、僕は初恋の二葉を目玉焼きにやつあたりする。まだ、寝ていろ。母さんだ。
――僕はもう14だ。フォーティーン、母さん以外に敵が増えるころだ。母さんは味方でいて欲しい。
――頼もしい事、犬になろう。桃コタローさん、お腰につけたそのラジオ……。
パタリ。ランチョンマットのラジオ付きが言葉を使う。
――お母さん、ラジオの話は朝からトゥーマッチヘヴィー。耳齧られるメガトンパンチだぜ。
――いいよ。大丈夫だ。
言葉を拒んだ空気に、人間はラジオ電波で言葉を創造した。
食物を咀嚼したまま、キスをしたまま、歯を磨いたまま、右手でチューニングをいじくって、人は思いをラジオで言葉にした。
弊害なのか崩落した世界の咆哮なのか、意思を持たないと盲信されてきた物、までがラジオを操作して言葉を使うようになったのだ。
僕らはそれらをラジオ付き、と呼んだ。
数は少ない、物の突端突然変異ではあったが、スイカの本音やポストの密告を聞くことができて、世界はひとつ、楽しさの種類を増やした。
――ランチョンマットラジオ付き、君のラジオはいったい何処にある? 僕の右手指に当たるものは?
初めて遭遇した時にこんなつまらない質問を僕はしたらしい。今でも部屋干しにする度愚痴られる。
――コタロー、君は誰かにラジオをみせたことがあるのか?
まったくの正論。
僕らは誰にも、ラジオをみせることをしない。
操作は常に服の内で。
母さんとラジオを交換するのも二人、ラジオをみないでする。
――今日は水泳授業があるから。
――はい。替えのパンツ忘れないようにね。
――うん。
母さんは僕にラジオをくれて、いってらっしゃいの笑顔を額縁泥棒逮捕歴三年ってな気丈さで玄関前に立っている。本当はそうじゃない。言葉を使えないラジオなしでは、人間は物として扱われても、文句も言えないんだ。
額縁泥棒は、ラジオを持った僕が捕まえる責任を持って。
マンションの重いドアが閉まって、僕は乳首のピアスにぶら下げたラジオを心臓の鼓動以上の振り子にして、学校へ向かった。
プール授業はラジオ盗難のグッドタイミングだったけれど、ラジオ泥棒の末路は悲惨だと皆知って、誰も盗まない。
甲子園バックネット裏に携帯端末持ってピースしに来るオーバー二十歳も同じ悲惨さで処理すればいいのに。
プールで、僕は塩素の青春を発達しかけた胸板に、クロールで色を弾いた。飛沫になった声のない声は、ラジオの届かない自由を貪って色っぽい。色っぽさで女子のスクール水着に勝っては、青春が色っぽくなくなる、気がしてもクロールはやめられない。
プール授業には体育教師の他にリタイヤした元スイマーが指導員としてプールサイドにいて、操作されたラジオ言葉が、体を開くな、顎を引け、バタ足は回数数えろ、と太陽の光を纏って逞しく響く。
全国で四位になった経験があるというその指導員は、六十代の女性で、薄いピンクのポロシャツにシルバーのラジオ透かせていた。
――あの年代はラジオみせに抵抗が薄いのよ、みんなで目を反らして対応して、個々の努力で平和を。
担任の小坂先生はそう言う。
僕は左乳首のピアス穴から出てくるあぶくに、ブクブク言わせてやれないことが悲しくて、悲しくて塩素剤を飲み込んで詫びをいれたくなる。も、やめる。お腹が壊れると、もっと悲しいから。
母さんは僕が学校で困らないように夜勤をしている。
僕は、平日の毎日、七時以降言葉を失う。
電話、インターフォンを無視し、ラジオ付きランチョンマット、ラジオ付き扇風機の言葉を待った。
しかし、僕のラジオが母さんについて行っている時間の間、それらがラジオを操作することはなく、言葉を聞くことはなかった。
テレビをつける。
ソファに寝転がる。
晩御飯が胃の中で消化されていくのがわかってしまうぐらいには、僕は一人だった。
――僕だって、もう中学生だし、七時以降も誰かと話したいこともあるよ。
そう、母さんに訴えたこともあった。
――私は、夜に働かないと、コタローは昼間学校にラジオなしに行ける? 私は、あなたにそれを強いることも、やろうと思えばできたのよ。
ラジオ光年を駆けて、僕らは思いを言葉にする。
星のシラベと似て、今は死んだ声もある。
聴取されることのないラジオ放送は死の飽和を越えた無重であぶくだってた。
生きていた。番組であった。かつても、今も、そこには言葉と電波に夢をみたパーソナリティーのトークがあり、夢の粒粒が歌として流れた。たとえ、その歌声すらもラジオ光年の残骸だったとしても。金魚鉢に例えられるラジオブースで、紡がれた夏の怪談話は独り身の背筋を冷水になってつたい、涙ながらに語られる病床の闘志は、挫けかけた人の目に炎を灯した。
ディレクターはキューを振り、パーソナリティーはカフをあげる。
リスナーはネタを投稿し、読まれないと怒った。
人気パーソナリティーは出待ちのリスナーに弟子入りを志願され、ノベルティーグッズはオークションサイトでも安く売られ、超人気番組のグッズは学校に持って行って自慢すると必ず盗まれた。
らしい。
らしい。
かつて、の話だ。
教科書で読んだ。ラジオ光年の話。
今の僕らにとって、ラジオは言葉だ。
言葉を拾って思いに重ねるための、空気の振動の代わり。
喉の代わり。
現在オンエア中のラジオパーソナリティーに一度目の言葉がない限り、誰も聞くことはない。
空気が人間の言葉を拒んだあの日から、ラジオは去った。
しかし去ったはずのラジオが、僕らに憑依する。
言葉を拾うだけの素材市場。
思い、伝達、わかってくれ。筆談、手話、背中文字、パントマイム、発展しかけたロストテクノロジーの怨霊も背負ってか、ラジオ光年の輝きが、時折僕らの言葉に、息を吹き返すことがあった。
――どうして、どうしてうちにはラジオが一個しかないんだよ。そんなの聞いたことない。鈴木くんちも、キクオのとこも、ゆっこちゃんちも、ラジオが家族全員にそれぞれないなんて、どうして、うちだけ。
――私に、それを言わせるつもりなの?
私に、それを言わせるつもりなの? XYZ放送2011年、5月放送、ラジオシネマ第58回分、主人公綾香の台詞。
ラジオ光年を経て、思いがジャミングする。
――母さん、また、当てたね。なんて喜べるタイミングじゃないけれど。
母さんから受け取って操作したラジオは濡れていた。
赤く。
――ささむけ、剥くの悪い癖だよ。
――ラジオ鉄臭くなるし。
――なんとか、言ってよ。
私に、それを言わせるつもりなの? ラジオ光年随分向こう、泳いできた言葉は、主人公綾香の声で。
僕らのラジオ言葉世界にどれほどの物語が、どれほどのニュースが、天気予報が、フリートークが、スポーツ実況がさんざめいているのか。
僕らはただ、時々、いつかのラジオ音声に心を重ねて。
生きることは、物語だった。
しょうがない。物語は書かれたもの。役は振られる。配役に文句は言えない。僕と母さんにラジオは一個。
そう、物語に書いてある。
母さんは何も言わなかった。主人公綾香の物語はもう、死んでいたから。続きは僕と母さんと、今を生きる世界の人間には知らない言葉だった。
――牛乳と、卵、と、アイスはコタロー君のセンスで。
――はい。
プール授業でくたびれた体が、ソファでの眠りを誘発して、僕は深夜に目を醒ました。
テレビの映像がクラシックと綺麗なビーチを映していた。際どい角度の水着にスポンサー企業の文字列がびっしり。
思春期の僕ですら欠伸がでる無粋に、テレビを消す。
消した画面に母さんが立っていた。
驚きの声もあげられず、目を剥く僕に、母さんは言った。
――仕事早く終わっちゃった。
いつもは五時ごろに帰って来るのに、掛け時計は一時にもなっていなかった。
本当に仕事が早く終わったのか、他の人も同じに帰っているのか、僕は質問をしなかった。お風呂に入りそびれた塩素臭い体で、母さんに抱きついていた。
お帰り、と、言わないまま。
そうしていた。
僕のラジオは。
何処にも、なかったんだ。
母さんのラジオを、僕は借りているんだ。
母さんのシャツに染み込んだタバコの匂いを、肺に一服、吸って、僕はやっとラジオを。
――お帰り。
――ただいま、ところで、母さん帰りにコンビニ寄るの忘れてしまいまして。
つきましては、14歳の少年には夜の冒険を。可愛い子にはなんとやら。
深夜、終電車も過ぎた夏の熱帯夜、素足ではいたスニーカーは幻じゃなく、乳首のピアスにぶら下げたラジオはぶつぶつ何かを言い続けていた。
うちのマンションからコンビニまで、数分、往復にしても桁は変わらず。
上がりっぱなしの踏み切りを越えて、コンビニを目指そうとした僕の耳に、飛び込んできたラジオ光年超えた輝き。
――あんなところに、女の子がいる。
北南放送、1998年、8月、ミッドナイトシアター、主人公トオルの友達タツヤの台詞。
僕のラジオ言葉が、僕の思いという当たりくじを引いて、正体を言葉にする。
ホーム、シャッターの下りた売店から、視神経を引き絞り、線路に落とす。待避口に、いた。
派手なブランドロゴ踊るジャージ上下の少女、いや、同じ中学にいたかもしれないぐらいの歳かっこの、女子。
僕はラジオ光年の物語に飛び込むように、塩素のままで待避口に駆け込んだ。
――こんなところにいて、怒られない?
胡坐を崩さず、その子は待避口にラジオ言葉を反響させて言った。
――怒られたら何?
ジャージのジャケット、ファスナーが上下する。
ラジオ言葉と、ファスナーの音が混濁する。
――二人でも割と狭くないもんだね。
拒まれなかった安心感に、僕はその子の隣、胡坐を組んで座った。夏のコンクリートは深夜にあって冷たくもなく、土管で内緒話をした幼稚園の頃を思い出した。
――電車ごっこがみられる。すると、ラジオ付きレールが賑やかなんだ。
女の子は「チコ」と名乗った。
僕は「コタロー」と名乗った。
チコの目がレールに反射した月光をもう一度反射する。
僕の目にチコの月光が宿る。
――電車ごっこ?
夜風が低く、ラジオ言葉のやり取りをかすめて飛んだ。
――まー、御覧よ。
深夜にラジオを操作する右手指が微かに震える。
外で、知らない誰かと、初めてで、震える。
操作ミスで言葉を間違えることなんてできないぐらいに、僕らはラジオ光年の物語で千両役者だったけど、今日の今なら、未経験の言葉間違いもできそうな気分だった。
何度もNGを出して、同じシーンにいたいと思った。
まー、は、いつの誰の言葉、御覧よ、は、どの時代の誰。
チコの声が、物語となって僕には聞こえた。
夏夜の危なげな雰囲気が、幻想的なたわみになって弧になる。
押した手に、手ごたえを感じる凹みのたわみに、僕は電車ごっこの疾走をみた。
――ガッタガタタタタタタタタン、ゴットンゴトゴトゴトトトトトン。
先頭を、特攻服のお兄さんが行く、腰に手を当てて、浮浪者のおじさんが二番手で、三番手は二足歩行の犬だった。犬種は知れない。四番手は半裸の女性で、チコは僕の目を掌で隠した。
――未成年には刺激が強いです、今宵の始発は。
と、自分の目もちゃんとつむっていた。
四連結の電車ごっこが、月の光で編んだ糸をシュッポシュッポさせている。
月の光で編んだ? ただの黄色のゴム紐じゃ?
――あの糸は月光で編んだのよ。先頭の人が。
うん。と、チコは頷いた。嬉しそうで、僕は不思議だったけど、なんだか一緒に嬉しかった。
電車ごっこが線路を焦がす。
ラジオ光年の物語が電車ごっこを大音量で、後押しする。
――ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
速度で行き過ぎる、景色はちぎられる。
音はガタガタ抜かさない。
轟音となって、過ぎたら、チコは僕の目を解放した。
――うわあ。
宇宙空間のコックピットでみたかったような景色。
電車ごっこの轟音に、ラジオ付きレールが語り出していた。
その語りの塊が、小さな金平糖みたいな粒になって、物語を発光させている。
声は、物になり、光を宿す。星のシラベと同じ。
今は死んだ物語が、ラジオ付きレールによって再生されている。
聞こえそうで、何も聞こえはしない。
僕はチコとただ、それをみていた。
チコはまだ、みていくという。僕はチコを残してコンビニでアイスを選んだ。僕のセンスで母さんにはパナップのグレープ、僕には僕のトキメキでアイスの実。
奇跡的にきっと、全部バニラだろうと予見したけど、それは外れていた。
――いつもいるの?
――ううん、週に二、三日かな。
――いつも、深夜?
――そりゃ、電車ごっこは最終終わってからだもの。
コンビニ店員さんに渡した数百円。お釣りに渡された数十円。
感じたことない肌感覚で、硬貨が手に初めまして。
週に、二、三日。
平日なら、僕にはラジオがない。
だけど。
それでも。
僕は行こうと思う。
――ただいま。
――遅かったね。
――うん。コンビニで友達とバッタリ。
――そう。
母さんはパナップを嬉しそうにトロフィーみたいに掲げた。
僕は笑った。
翌々日。木曜日。深夜。終電車は行ってしまった。僕の鼓動は何処へも行かない。
ラジオは夜勤の母さんが持っている。
僕には言葉がない。
ラジオがないと、思いも上手に思いにならない。
なのに、チコに会いたいと、ラジオのない声が叫んでいた。
行こう。
僕はマンションを出て、踏み切りに立った。
ホーム、売店のシャッター、視神経ずらして、待避口。
一昨日とは違うブランドロゴけばけばしいジャージ、茶色の短い髪が、コンクリートの中でカラフルだった。
期待したように、チコは踏み切りに立つ僕に、目をくれる。
会釈をした。
永遠に希釈されることのない純度の会釈だ。
うん。
と、僕は立呆けた。
やって来ない電車、下りない遮断機。
だけど、僕にはラジオがなかった。
僕はラジオを持たずに産まれた。僕こそ、この世の異端種。
母さんは、隠してたけど。
バレないように、14にまでならせてくれたけど。
母さんは、望んだだろうか。
僕がラジオを持たずに夜の街を歩くことを。
電車は来ない。
来るのは、電車ごっこだ。
チコが目で呼ぶ。
不安そうな面持ちで。
会いたくて、来たんでしょうに。
そう言ってる。のかもしれない。
僕は、来た道を引き返した。
乳首のピアスが、やけに冷たくて軽い。
振り返るな。
と、心臓に言い聞かせて、帰ろう。
朝、母さんが帰って来る。僕は金曜日の朝、ラジオを持って学校へ行く。
電車ごっこは子供の遊びだ。僕はもう、中学生だ。
ラジオがないのに、思いがやけに正直だな。
――ちょっと。
チコが僕に並んでいた。
肩に、手が触る。
――もうすぐ、今日の始発が来ちゃうの、私、みたいの。
僕は何も言えない。
――コタロー君と、みたいの。
――一人じゃ、広いの、あそこ。
僕は何も、言えない。
――ラジオ、どうしたの。
ラジオ、どうしたの。
ないんだ。一昨日は、母さんのを借りてた。
僕には僕の言葉がない。
それはみんな同じだと、言ってくれ、でもそれは返事だ。
――と、にかく。
チコは僕を引っ張った。
引っ張られるまま、無力な僕は気が付くと、待避口にいた。
電車ごっこが駆け抜ける。
――ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
その音の中で、僕は僕のラジオを、誰に奪われたのか思い出そうとしていた。
――ラジオ持たずに来たの?
僕は何も言えなかった。
――やるじゃん。
チコは言った。ラジオ光年の当たり台詞。1987年、NHK、音の風景、琴引浜の鳴き砂。
音の風景になった二人のカップル、彼氏が砂を鳴かせてはしゃぐ、彼女は言った。やるじゃん。
ラジオ光年、どれぐらい。物語の距離は、いつも僕らと共に。
僕のラジオはチコに借りた。
――僕はラジオを持たずに産まれたんだ。
まず、この言葉から。僕のラジオ光年。死んでもいつか、誰かの言葉に。
僕はラジオを持たずに産まれたんだ。と、言う勇気のある人の声として、転生を待つ。
――レールの金平糖、食べてみない? 一人じゃ勇気が出なくってさ。
チコはそう言って、ササっと二粒。レールの声を摘まんでいた。
――美味しそうだね。
僕はまたチコのラジオを借りて言った。
チコは、
――せーの。
と誘うように口を開けて、ちょっと笑っていた。
僕は音の金平糖を口に含む、美味しくはない。ね、と顔をしかめたチコに僕もしかめてみせる。
僕は、ラジオを持たずに産まれた。みんなとは違う。母さんに借りたラジオ、チコに借りたラジオ。
ラジオ光年僕の声、あなたはラジオ持ってますか。
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