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何事だろうと驚いた私は自然と目を開け、横のベンチに顔を向けた。
そこには黄色の帽子に水色のスモックを着た四、五才くらいの女の子がこちらに背を向けるようにして座っていて、さらにその奥の方に、背もたれをちゃんと背にして座る三十前後の男性がいる。
その座る男性の前に同じく三十前後の男性が立ち、座る方を見下ろしていた。
お互いににらみ合っている。座っている男性が叫ぶ。
「お前は誰なんだよ!! ミユキをさらおうってのか!? ふざけるな!!」
「お前こそ、なんでミユキと一緒にいるんだよ!! ちょっと目を離した隙に!! お前の方がミユキをさらったんだろうが!!」
立っている方の男がジダンダを踏む。
目を見張る私は警察に電話してやろうかとケータイを取り出したが、あれと思った。
この二人は、年は同じくらいかもしれないが見た目が全く違う。
ベンチに座る男性は白いシャツに黒いパンツ、髪もちょっと長めでオシャレなタイプだった。
しかし、ベンチの前に立つ男性は適当に、Tシャツとジーパンにサンダルを履いて、髪型にもこだわりはなさそうに見える。
こんなに違う二人なのに、黄色い帽子の女の子は父親を間違えたりするだろうか。
それに、この子はどうして黙っているのだろう。
大人の男二人が目の前で大声で怒鳴り合っているのだから、泣き出してもおかしくないだろうに。
一言も言わないどころか、静かすぎるではないか。
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