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「先生、煙草少し控えたらどうですか?」
準備の為呼び出された生物室で教師にそう言い放ったのは、2年1組の生徒兼生徒会長の雨宮 桜である。
「心配してくれてるの?嬉しいな」
「いえ、私副流煙で死にたくないので」
あとお金もないでしょうと、痛いところをついてくる生徒に苦笑を浮かべながらも手を動かす。
「さて、それこっちに置いてくれ。それでお終いだ」
「はい」
「雨宮のおかげで早く片付いたよ、ありがとう」
「どういたしまして」
……これも反応無しか。
(昔は言葉一つ一つに反応して面白かったのになあ)
そうだ、と思いついたことを危うく口走りそうになり、鋭い視線に睨まれる。
「まあまあ、授業の準備も終わったことだし」
「あの、なんで授業の準備が終わると壁ドンされなきゃいけないんですか?」
「それはほら」
開いた手で頬を撫で下ろし、触れるだけの優しいキスを落とす。ほんの一瞬、すぐに離れて私より背の低い彼女を少し屈んで下から覗き込む。
まだ少し幼さを残す顔が、まるで熟した林檎のように耳まで染まっているのを確認して。とりあえず満足する。
「……先生のそういうところ嫌いです」
「私は桜のそういうところが好きだよ」
肩まで伸びた綺麗な黒髪を掬い上げ口づけをする。こういうのにはやはりまだ慣れていないのだと確認でき、久々に幸福感に浸る。
「最近、忙しかったから……」
「うん」
「生徒会も変わって、会長になって、不安で……」
俯きながらも彼女は言葉を紡いでいく。一つ一つ受け止めて、優しく包み込むように……壊れてしまわないように……
「ずっと、寂しかった……」
胸の中にうずくまる彼女を、優しく抱きしめ頭を撫でる。
「よくできました」
他では味わえないであろうこの温もりは、やはり特別だと感じる。これだけは離してはいけないものなのだと本能が言う。
「今日、来るよね?」
制服の下から手を入れ、温もりの中の違和感を探る。お目当ての物はその暖かさが移っていて、それが妙に嬉しくて、興奮して、心の余裕を無くしていく。首から大事に掛けられているそれは、私が前に渡したもので、私達の関係の印。
こくんと頷いた彼女の顔にまた手を伸ばす。が、時間を知らせる鐘の音がそれを妨害する。
まあ、ここでしたら止まらなくなりそうだからちょうどいいか。などと思いながら、戻ろうと彼女の手を引く。
「先生」
「ん?」
「好きです」
「……やり返すのは十年早い」
そう言いながらも、顔に上った熱をどうしようかと考えているのであった。
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