夜空に咲いた愛の形

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夜空に咲いた愛の形

大花火当日、彩と約束した待ち合わせ場所に向かう最中、色んな事を考えていた。 若菜と優菜との思い出や今の彩との事、自分が達成出来なかった事をこの世界が変わってやれている事。 走馬灯のように巡り、最初は嬉しさで溢れていたけど、今は何故か胸のモヤモヤしたものが残っていた。 彩と約束の場所に着いたけれど、彩はまだ来ていない様だった。 (あれ・・・?そういえばここって・・・。) 初めて若菜とデートをした時の待ち合わせ場所だった。 あの世界で若菜と付き合うのはまだ先だけれど、今とても懐かしい感じがした。 「そういえば、あの時は僕が待ち合わせに遅れて、不機嫌にさせたんだっけ・・・。」 そんな事を思い出しながら一人で笑ってしまった。 懐かしくて・・・。眩しくて・・・。 色んな所に出かけて、ケンカもして、仲直りして、いっぱい泣いて、記念日は一緒にお祝いをして。 そしてたくさんの思い出を作って、優菜が産まれて。産まれてすぐの産声を聞いて、誰よりも嬉し涙を流して。 少しずつ大きく育っていく姿を若菜と一緒に見ている。 そんな日常がとても幸せな時間だった。 「・・・・・・・。っ!!」 (あれ・・・?僕・・・・泣いてる?) 止めようと思えば思うほど溢れ出す涙。 誰にも見られない様に壁の方を向いてしゃがみこんだ。 「隆太ー!お待たせ。ごめんね遅くなっちゃった!どうしたの?うずくまっちゃって。」 「・・・いや、なんでもないんだ!ごめんね!よしっ、じゃ行こうか。」 「うん!」 大花火の会場に向かう道中、何度も彩と手を繋ぎそうになったけれど、お互いが恥ずかしさでなかな手を繋げず、気付けば会場に到着していた。 「今日ね、隆太にお弁当作ってきたんだ。夜だし長いからお腹がすくと思ってさ。食べて!」 「あぁ、ありがとう。・・・美味しい!すごく美味しいよ。唐揚げと卵焼き最高だよ!」 「本当?良かった。口に合うかどうか心配だったんだ。」 その時、 (ヒュ~~~~~・・・バン!) 大きな音を立てて、最初の花火が一発上がった。 「ねぇ・・・隆太・・・。」 「・・・?何?どうしんたの?」 「本当の事言ってね?・・隆太私の事好き?」 「え・・・?」 「私の事・・・ちゃんと好き・・・かな?」 「どうしたんだよ急に。好きに決まって」 そう言いかけた時、彩は話を続けた。 「隆太と話をしているとさ、最近違う事考えてるんだろうなーって思う時があるんだ。楽しい話をしようと思っても上の空だし。乙女の直感を侮っちゃいけないぞ!・・・隆太にはきっと・・・」 彩は下を向きながら話していた。泣きたいのを堪えているんだとすぐにわかった。 僕達がそんな話をしている最中、色とりどりの花火が夏の夜空を響かせていた。 その花火を見て僕はまた思い出した。 この大花火は若菜と一緒に見ていた。 (そういえばあの時若菜が言っていた。) (隆太、また一緒に花火見にこようね!来年も再来年も、結婚して子供が生まれたら子供も一緒に連れて。ずっとずっと一緒にいようね!だーい好き) 「・・・・・・・・・。」 僕は何も言えずまたしゃがみこんでしまった。 そしてまた涙が溢れ出した。 僕は忘れていたんだ。 若菜との約束も、自分の本当の幸せの意味も。 「ねぇ隆太・・・私は隆太と付き合って本当に良かった。すっごく楽しかったし幸せだったよ。ありがとう。だからもう・・・隆太が思っている事、本当の気持ちを教えて?」 全ての出来事が頭の中で一瞬にして蘇った。 若菜との思い出、優菜の誕生、夢への挑戦、彩との思い出。  そして自分自身の情けなさに気付いた。 本当の大切な事、本当の幸せはきっと言葉じゃ言い表せられない何かで出来ていて、それはあの時に既に手に入れていたんだ。 「ごめん、彩。俺・・・。」 「わかってる・・・。わかってるから。ありがとうね。今まで。私は・・・大好きだったよ。」 泣きながら彩は笑顔でそう話してくれた。 僕は溢れる涙を見せない様に背中を向けて、そのまま歩き出した。 「ごめん、彩。本当に・・・ごめん。」 彩には聞こえていないけれど、心の底から出た彩への最後の言葉だった。 幸せは色んな形があって、色んな所にお幸せがある。 初めて彩と出会った時に今の様になっていたら、彩との幸せの形があったかもしれない。 けれど、僕の中で既に咲いていた幸せは、もうどんな物にも染まらず、自分の描いた夢よりも大きく、自分が恋をした人よりも大きな愛になっていたんだ。 今僕の本当の愛しているを伝えたい。 心からそう思った。
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