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君さえいれば
僕はゆっくりと話し出す。
「えっと・・・何から話したらいいのか・・・。若菜は僕の事を知らない、それは分かってる。けど、僕は若菜の事を知っている。これがどういう事かを説明したいけど、信じてもらえないかもしれない。」
「よく意味がわからないよ。どういう事?」
「そうだよね。ごめん。・・・わかった。全部を話すよ。本当にあった事を全部。」
僕は何もかもを話し始めた。
「未来から来た・・・なんて言うのもおかしいんだけれど。違う世界から来た?が合っているのかな。若菜と僕はその世界で結婚をするんだ。そして子供が産まれる。そこで僕達は幸せに暮らすんだ。」
「ちょっ・・・ちょっと待って!何がなんだかわからないんだけど。未来とか違う世界とかって一体・・・。」
「そう・・・だよね。絶対に困惑するって思ったよ。けど、実際の話なんだ。僕も気付いたらこうなってた。当時は29歳だったのに
気が付いたら11歳の頃の自分になってたんだ。そして今日まで時間が過ぎた。僕はまた君と一緒になる為にこうして会いに来たんだ。」
「ごめん、全然何を言っているのかわからないし、私はあなたの事をこれっぽっちも知らないんだよ?それなのに一緒になるとか結婚するとか言われても考えられる訳ないじゃない。」
「そんな事は分かってる。だから今すぐじゃなくていい。また君が僕を好きになってくれる様にゆっくりと。」
「もういいよ。私には到底理解出来ない。じゃあね。」
「待って!ちゃんと話を聞いてほしんだ!」
「もうやめて!そんな話私は信じない!」
「お願いだよ!まだ話は・・・。」
そう言いかけた時、若菜は突然倒れてしまった。
「わ・・・若菜!?若菜?若菜!!」
僕は若菜を担いで若菜の家まで走った。
家に着くと若菜の両親はすぐに救急車を呼んで病院へと向かった。
お母さんが救急車で一緒についていき、僕もお父さんが車に乗せてもらった。
病院について長い時間がたった。
いや、長い時間に感じていたのかもしれない。
「お父さんとお母さんですね?どうぞこちらへ。」
医者に連れられて、お父さんとお母さんは診察室に入っていった。
僕はさすがにそこには一緒にはいけなかった。
暫くしてお父さんとお母さんがやってきた。
「隆太君だったかな。もう遅いし家まで送っていくよ。」
お父さんがそう言ってくれたので、僕は乗せてもらう事にした。
帰りの車の中、暫くの間僕もお父さんも何も喋らなかったけれど、最初に話をしてくれたのはお父さんからだった。
「隆太君は若菜とどんな関係なのかな?」
「えっと・・・。今は・・・その知り合い・・・と言いますか、友達?と言いますか。」
「そうか。彼氏ではないんだな。見た目の印象だけだと誠実な感じでとても良さそうな人だと私は感じたよ。」
「ありがとうございます。けれど僕は実際そんな出来た人間では。」
「いい印象の人は皆そう言うんだよ。今日は娘を、若菜を運んで来てくれて助かったよ。ありがとう。」
「いえ・・・。」
僕は胸を締め付けられる様に苦しかった。
僕があの時若菜を呼び止めなければ、話をしなければもう家に帰っていたのに。
後悔を感じ、一人泣き出しそうになっていた。
「白血病・・・だそうだ。」
時が止まった。
一瞬周りの音も一切入ってこなかった。
「・・・・・・・・えっ?」
「しかも・・・かなり進行が進んでいたらしい。本来であれば症状があらわれていてもおかしくないのだが、あの子は強気な子でね。
ずっとその症状を隠してきたみたいなんだ。」
僕は何も言えなかった。
目の前が真っ白になるという言葉がよく分かった。
全てが遮断され、考える事も自分が息をしているのかさえも分からなかった。
「薬の投与と手術の方向で進めるようだが・・・。薬の副作用がまた大変みたいなんだ。あの子今まで病気とかもあんまりしていなかったから薬なんて慣れていないだろうしな。大変な思いを・・・さ・・させてしまうな。」
隣で運転をしながら泣き出したお父さんの姿を見て、僕もようやく涙が出た。
そして出た涙はずっと止める事が出来ず家に着くまでの間、僕とお父さんはひたすら涙を流し続けた。
そして家に着くとお父さんは僕に言ってくれた。
「娘は・・・病院にいる姿をあんまり見られたくないかもしれないが、もし君さえよかったら、話し相手になってあげてくれないか?」
「わかりました。今日はありがとうございました。」
お父さんが車を走らせ、その姿が見えなくなるまで僕はその様子を眺めていた。
神様は残酷だ。
どうしてこんな状況になるのだろう。
時代が戻っただけだと思った。
けれど、何もかもが変わり始めた。
僕は今までの出来事全てに後悔をしていた。
ただ、僕は君さえいてくれればそれだけでよかったのに。
もう一度若菜と優菜がいる世界に戻りたかっただけなのに。
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