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愛しています
僕は次の日何もする気が起きなかった。
朝目が覚めては若菜の事を考え、そしてまた現実逃避する様に眠りに着く事を繰り返し、時間だけがどんどんと過ぎて行った。
「隆太!いつまで寝てるの!?いい加減に起きなさい!」
母さんが僕を起こしに来た。
僕はゆっくりと体を起こし、気持ちが入らないままリビングへと向かった。
「あんたいい歳してもうすぐ社会人になるんだからシャキッとしなさいよ!今日野球部が休みだからってダラダラしない!」
僕だって普段からこんな風にしているんじゃない。
それなのにそんな言い方をされて少し苛立っていた。
「・・・わかってるよ。そんな事。」
「わかってるならいちいち言わせないでちょうだい。隆太今日時間ある?あるならお母さんの買い物に付き合って欲しいんだけど。」
あまり乗り気ではなかったけれど、このまま家にいても仕方ないと思い、
「分かった。いいよ。」
と僕は答え、出かける支度を始めた。
母さんと色んな所の買い物に付き合い、最後は夕飯の買い出しでスーパーに寄った。
そう、この時代に来て初めて若菜と会ったあのスーパーであり、昨日若菜と話をした公園の隣だった。
駐車場に着くなり僕は昨日の出来事を思い出していた。
「隆太。隆太!着いたよ。早く降りて。」
「あぁ、ごめん。」
「隆太、あんたどうしたの?ボーっとしちゃって。具合でも悪いの?」
「・・・いや、何でもないんだ。大丈夫。」
そして僕と母さんは店の中へ入っていった。
買い物をしている時だった。
「ねー!私これ食べたい!」
遠くからその言葉が聞こえ、思わず振り返った。
あの日、初めて若菜を見た時も同じ事を言っていたので思わずドキッとしてしまった。
もちろんそこにいたのは全く知らない女の子だった。
けどあの時の若菜と同じ年位の子だろうか。
あの頃の懐かしさと、昨日の出来事で自然と涙が流れてきた。
(・・・・・・っ!!)
自分でもあまりにも突然の涙だったので一瞬驚き、僕は店から出て駐車場まで戻った。
そして、ゆっくりと隣の昨日若菜と話をした公園に向かって歩き出した。
昨日若菜が座っていたベンチ、話をした時の顔、病院に運ばれる姿、白血病の事実を知った瞬間、お父さんの泣いている姿、そして若菜と
優菜と生活した時間。
その全てが走馬灯の様に脳裏を巡り、僕はその場でしゃがみ込み、大きな声で泣いた。
今までの出来事全てを吐き出すかの様に泣いた。
泣いた。
ひたすらに泣いた。
きっと、たくさんの人達が近くを通りかかったと思う。
けれどそんな事もわからない位にただただひたすらにがむしゃらに泣いた。
どれくらい泣き続けただろうか。
きっと僕の泣き続けた姿を、遠くから、けれど誰よりも一番近い想いで母さんはそっと見ていてくれていたみたいだ。
泣き続け、少し気持ちが楽になり僕は車へ戻った。
母さんは優しく僕に缶コーヒーを投げた。
そして車に二人乗りこむと、母さんは優しく聞いてきた。
「どんな辛い思いをしているんだ?隆太が泣く姿は小さい頃に見て以来ずーっと見ていなかったよ。」
「そう・・・だったかな?」
僕は少し照れ臭そうに言った。
「でもね・・・お父さんはどうかわからないけど、お母さんにはわかるよ。隆太がずっと、何かを隠してきた事。」
「・・・?母さん・・・何の事?」
僕はドキッとした。
「分かるに決まってるでしょ。あんたは、母さんのお腹の中でずっと繋がっていて、痛みを堪えて世の中に出てきた。そして今だって、
体が離れてたって、隆太が考えている事や変わった様子の事は、誰よりも一番わかってる。小学校の時の突然野球がすごくなったのもおかしいって思ったわよ。」
母は笑いながら話した。
母の強さというものを実感した。
「母さん、僕・・・。」
涙がまた流れてきた。
僕は泣き虫だ。
けど、それでいい。
きっとこの状況は僕一人では抱えきれないとそう思った。
けれど、今まではこんなあり得ない話を誰にもする事が出来なかった。
僕は母に打ち明けた。
「母さん・・・僕は」
何もかも全てを話している間、母さんは全く疑う様子もなく、笑う事もなく、ずっと頷きながら僕の話を最後まで聞き、そして最後は優しく
僕を抱きしめた。
まるで幼かった時の僕を抱きしめる様に。
「大変だったね。」
母さんのたったその一言の言葉で、全身の力が抜ける様に楽になった。
「あんたの将来が楽しみだわ。でも、今はその若菜ちゃんの為に隆太が出来る事を精一杯やりなさい。隆太が本当にちゃんと大事に思っているんだったら。」
「大事・・・なんてもんじゃないよ。僕はずっと若菜を愛してるんだ。」
「その気持ち、ちゃんと伝えなさいよ。」
そう言って母さんは車を走らせた。
帰りの車の中は、母さんに僕のいた未来の状況を色々と聞いてきた。
「優菜ちゃんに早く会ってみたいわー。」
「うん、すっごく可愛いんだ。それでね!」
家に着くまで話は止まらなかった。
どうか神様、若菜を守って下さい。
僕はもう、これ以上何も望みません。
若菜と優菜との幸せな時間に戻れるなら、僕はもう何も・・・。
だから、愛する人をどうか。
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