奇跡

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奇跡

若菜の葬儀に、僕も参列させてもらった。 だけど、僕は未だに若菜がこの世界からいなくなってしまう事を信じられなかった。 またあのいつもの笑顔で、一緒に生活をしていた時と同じ笑顔でまた会える気がしていたんだ。 葬儀の後、若菜のお父さんが僕を家に招いてくれた。 お父さんは僕を若菜が居た部屋へ案内をしてくれた。 そこは、若菜と暮らしていた頃に何度か来た時と変わらない風景だった。 「若菜がここにいた時はな、この部屋にはあまり来なかった。女の子だからな。でもな、ここに来ると小さかった若菜がいた様子が記憶で 蘇ってくるんだよ。親ばかだと言われるかもしれないけれど、あんなにいい子だったのにな。なんで・・・。なんであの子があんな目に・・・。」 お父さんは僕にそう話し、涙を見られない様にそっと部屋を出て行った。 残された部屋で僕はもう少し、若菜が空気を感じていた。 目を閉じて、深く息を吸った。 たくさんの思い出が込み上げてきた。 (若菜・・・会いたい・・・好きだ・・・会いたい・・・愛してる・・・会いたい・・・。) 僕は部屋に飾ってあった若菜の写真をもって外へ飛び出した。 走った。 泣いた・・・泣いた・・・泣いた・・・。 そして僕はあの公園のベンチに辿り着いた。 僕はベンチに肘をついてしゃがみ込み、そして泣いた。 何度も若菜の写真を見て、何度も思い出を振り返り、何度も涙を流した。 その時、背中に手をそっと差し伸べてくれる誰かがいた。 僕はくしゃくしゃの顔でゆっくりと振り返った。 そこに居たのは管理人の姿だった。 「管理人さん!僕は・・・僕の運命の人は若菜なんだ!ぼ・・僕はそれに気付いた!やっと気付いたんだ。けど遅かった。こんなに愛しているのに、もう届かない。話も出来ない、手も握れない。こんな世界は耐えられない!もう・・・嫌だ。若菜がいない世界なら僕だって・・・!!」 そう言いかけた時、管理人は僕を抱き締めた。 強く強く抱き締めてくれた。 僕は驚いた。 管理人からくる香りは、どこかで嗅いだ事があった。 「そんな事・・・言わないで。私は・・・ずっと待ってた。隆太がちゃんとそう思って戻って来てくれるってずっと待ってたんだよ!」 僕は訳がわからなかった。 「どう・・・して・・・?」 「私だよ隆太!若菜だよ。信じられない?」 「どう・・・いう事?」 「私にもよく分からない。多分隆太と同じだと思う。私も隆太と一緒にいた世界から来たの。隆太がもともといた世界とは違うけれど、隆太と一緒にいた世界は楽しかった。隆太と一緒に過ごした日々は楽しかったのに、私は隆太の事を裏切ってしまった。私が隆太に期待を掛けすぎて辛い思いばかりをさせてたのに、私が自分勝手に家を出ちゃった。その帰り道に突然車がぶつかってきた所まで覚えてる。目が覚めたら この世界に来てた。今の隆太とは歳は違うけど、ずっと隆太に会いたいって思ってた。けど初めて出会った時の隆太は違う女の子と一緒だった。もう隆太とは一緒になれないのかもって思ってた。ずっと戻って来てくれる事をずっと待ってた。だからあの時。」 「そうか・・・。だからあの時、運命の人は待ってるって。そうだったんだね。若菜。」 もう二度と会えないと思っていた。 どんな形であれ、若菜と会えた事がどんな事よりも幸せだった。 「若菜・・・。ごめん、俺幸せってもっと違う形だと思ってた。でもわかったんだ。大切な人と一緒にいれるだけで幸せだったんだ。後は 普通でいい、普通でいいんだ。もう離れない、離れたくない!」 「わ・・・私も・・・だよ!隆太!大好き!ごめんね、隆太!ごめんね!」 その時、天より眩しい程の光が僕達を包んだ。 抱き締めあった二人の体が、そっと離れ、そして光に包まれながら突然眠りについた。 目が覚めると、僕は病室のベッドにいた。 僕の手を握る感触があった。 ゆっくりと僕はその手のある方を見た。 そこには、若菜と優菜の姿があった。 「こ・・・こは?」 「・・・・・!!隆太!?隆太!!先生!隆太が目を覚ましました!」 若菜が呼んだ医者がかけつけた。 「隆太君!記憶はあるかい?痛む所はあるかい?」 「いえ・・・特にありません、大丈夫です。」 「キャハ!ワー」 「優菜・・・。会いたかったよ。優菜。若菜も。」 「心配かけさせて!隆太のバカ!」 「ごめんね、ただいま。」 僕は思った。 この世界に神様がいるかどうかなんてわからない。 けれど僕の不思議な体験はきっと単純な程明確で、本当の幸せに気付かせてくれるチャンスを何かが与えてくれた。 どうして僕がそのチャンスを貰えたのかはわからない。 でも一つ言える事がある。 僕は今も、きっとこれからも、ずっとずっと幸せです。                         ~ 完 ~
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