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過去に戻った
僕が気を失ってからどれくらいの時間がたったのだろうか。
周りは静かで何も聞こえない。
目を開けようとしたが、長い間閉じていたかのように眩しくて目が痛くなる。
両目を擦りながらゆっくりと瞼を開いた。
「あれ・・・。この部屋は・・・・。」
ここがどこなのかはすぐに分かった。
そこは、僕がまだ小さい頃に住んでいた建て直す前の家、僕の昔の部屋の中だった。
(あれ・・・・。どうして・・・?)
僕はゆっくりとベッドから降りた。
(なんだか、周りの物が大きく見える。)
そして僕は隣の両親が寝ている部屋に行き、懐かしい化粧台の前に立った。
「えーーーーーーっ!なんでー!?」
思わず大声で叫んでしまった。
何故なら僕の体が小さく、いや、小学生の体になっていたからだ。
「なんだ!どうした!?」
「おっ親父!?」
「なんだ突然親父って!お父さんだろ!」
まだ老けていない、黒い髪の親父が立っていた。
思わず親父と呼んでしまったが、そういえば親父って呼ぶようになったのは中学3年生の時だったか。
「ごめん、寝ぼけてた。なんでもないよお父さん。」
ということは、下に行くときっと若い母さんと兄と姉がいるはず。
こんな訳のわからない状態だが、少しワクワクしていた。
周りを見回すと全てが懐かしい。
扉、シャンデリア、階段、窓、風呂場、洗面台、全てが懐かしかった。
ゆっくりとリビングの扉を開けると、そこにはやはりまだ小さい姉と兄がそこにいた。
そしてキッチンへ向かうと、若々しい母さんがそこにいた。
僕は、この懐かしい雰囲気と光景に思わず感動し涙が溢れそうになった。
「ほら、もうすぐお昼ご飯出来るからテーブルの上を片付けて!」
皆にとってはいつもと変わらない光景、でも僕にとっては違和感のある状況に戸惑っていた。
「隆太は遊びに行く前にちゃんと夏休みの勉強をやってから遊びに行きなさいよ。わかった?」
「うん。・・・わかった。」
どうやら今は夏休みらしい。
けれど、僕は今何年生なんだろう。
近くにカレンダーが掛けてあったので見てみると、どうやら僕は今小学5年生だ。
「隆太お前明日試合だからな。」
僕は小学1年生の頃から野球チームに入っていて、親父はそこの監督をやっている。
親父も若い頃はバリバリの野球選手で、ピッチャーをやっていたが大会の直前で肩を壊してしまい、当時甲子園出場候補とも言われていたが夢に挑戦する事も叶わなかった。
その話を聞いて、僕と兄は必ず甲子園に行きたいと頑張ってきた。
そして、兄弟別々の高校に進んだが、兄は2年生の春の選抜、3年生の春の選抜と夏の甲子園にレギュラーとして出場し、僕は3年生の夏の甲子園に出場し、巷では一時期兄弟で甲子園出場はすごいと話題にもなった。
けれど僕はレギュラーではなく、ベンチの控えとしていた。
やはりレギュラーとして出場したかったと後から何度も後悔をした。
だからこそまた小学生に戻った今、あの時の後悔をしない為にもっと練習をしようと思った。
「おや・・・お父さん、お昼食べたら練習にちょっと付き合ってよ。」
「隆太の方から言ってくるなんて珍しいな。いつもはすぐに遊びにいくのに。」
「野球で・・・誰にも負けたくないんだ。」
ご飯を食べ終わり、親父と庭に出た。
建て直す前の家は家の中が少し狭い分、庭がすごく広くて兄弟で良く鬼ごっこなんかもやってたなと、また懐かしさに浸ってしまった。
「よし!じゃー投げて見ろ。」
小学生の頃は僕もピッチャーをやっていたが、中学生の時に他の学校のピッチャーに勝てず外野手に回る事となった。それももう負けたくない。
「投げるよ!」
(シュッ!・・バシン!)
親父の構えているキャッチャーミットに勢いよく球が入った。
体は子供だが、野球を長くやってきた経験でスピードもコントロールも小学生以上だった。
「おい!何だ今の球!?いつからそんなに投げれる様になったんだ!」
親父は驚きながら俺に球を投げ返した。
「こっそり練習してたんだよ。」
僕も笑いながら誤魔化した。
(よし、感覚はしっかりと残っている。もう誰にも負けない位、もう一度練習をするんだ。)
翌日の試合は、誰も僕の球を打つ事が出来る小学生がおらず、圧勝した。
そんな僕の人が変わった様な姿に保護者はもちろん、チームメイトも驚きを隠せずにいた。
「隆太なんだよあの球は!?いつからあんなの投げれる様になったんだ!?」
チームメイトで唯一同級生の隼人が声を掛けてきた。
「なんか突然変異が起きたみたい。」
僕は隼人に向かって笑って誤魔化した。
夏休みの宿題も当時はあんなに嫌がっていたのに、今まで厳しい会社の中で過ごしてきたことと比べると難なくこなせた。
(勉強も野球も誰にも負けたくない、将来有名人になる。そして、新しい人生でやりなおすんだ。)
そう僕は心に決めた。
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