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「そういうことは奥様と離婚されてからやるべきですよ、安藤先生」
安藤先生と呼ばれた医師が青ざめた顔でグラマラス美人を振り返る。
「な……何を言ってるんだ」
「外科の安藤先生ですよね。私、別館三階の井上美紀です。ご存じないと思うので、病院に確認取ってもらって構いませんけど」
美紀がスマホを出すと、医師は酸欠になったように口をパクパクと動かす。自分より強いものはいないと信じていた肉食獣のもとに人間が現れ、人間が手にしている猟銃は自分の命を奪うものだと知ってしまった肉食獣のようだ。
医師は何か反論しようと口を動かすも周囲からの視線に耐えかねたのか、真衣を振り返ることもなく大股で会場を出ていく。
突然の展開についていけず呆気に取られている真衣だが、彼女を現実に戻すのは別の声だ。
「木田さん、ちょっとお話聞きたいんだけどいいかな」
近くで聞こえた声に振り向いた真衣の目に飛び込んできたのは二枚の警察手帳だ。男女2人が手帳を掲げた先にいるのは、真衣の肩を抱いていた営業マンだ。その光景を見て、真衣は自分が相手の名前すら知らなかったことに気付く。
「警察の方にお話しするようなことは何も……」
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