奇跡と反撃

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奇跡と反撃

 不思議なことに、そう思い始めると、どんどん色んなことを、13歳上の先輩と話すようになっていった。すると物知りな13歳上の先輩は、色んな話題を振ってくれた。13歳上の先輩の話の内容は、とても楽しかった。話がはずんだ。私もどんどんしゃべり、先輩もどんどんしゃべる。そんなことが続くようになり、本当に仲良くなっていったのだ。このとは、まるで奇跡だった。一生ありえないと思っていた、この世で一番大嫌いだと思っていた13歳上の先輩と、めちゃくちゃ仲良くなるなんて。こうなると、毎日会社に行くのも楽しかった。世間話もしながら仕事もする、そのことが、とても良い雰囲気を作っていた。そして、わざとではなく、自然と4歳年上の先輩と話す時間が減っていた。それだけ、13歳年上の先輩と話す内容が長くなっていただけなのだけど。私としては4歳年上の先輩にも声をかけていたが、なかなか話が続かないのである。13歳年上の先輩も、私にばかり話しかけ、4歳年上の先輩は、なかなか会話に入ってこれないのか、ずっと黙っている日もあった。 私は4歳上の先輩にも、できるだけ話かけるようにしていたが、ある日、 「マサエさん、宅急便がきたよ。」 と言って、4歳上の先輩がわざわざ、事務所の奥の奥にいる私を呼びに来た。私は不思議に思った。事務所の一番奥から、私は4歳上の先輩が宅急便の配達員の人と話しているのを見ていたから。どうして受け取ってないの?と思った。それから、事務所のドアを開けて閉めた時、少し閉まってなかったことがあったらしい。ちょうどその時そこにいた4歳上の先輩は、 「マサエさん、ここ閉まってなかったよ。」 3ミリ程の話だが、4つ上の先輩はこのように言ってきた。 「はぁ・・・・。」 と私は一応返事をした。他にも、 「郵便受けを見ておいてね。」 「床、掃除しておいてね。」 いつも私が10年間やり続けていることを、わざわざ言ってきた。何か変な感じがした。顔は笑っているが、少しとがったものの言い方のように感じる。そして、よく聞いていると、いつも気を遣って話しかけている、先輩への話しかけも、すべて否定される方向に話題が向かっていくことに気づいたのだ。私はびっくりした。どうしてこんなことをされなければならないのかと思った。気分が悪かった。それでも先輩として失礼の無いように接していた。 そんな日々が数ヶ月続いたある日、さらにおかしなことに、私は気づくのである。仲良くなった13歳年上の先輩が私に言ってきたことは、 「マサエさん、私たちは正社員だから。」 奇跡的に仲良くなった13歳上の先輩は、4歳上の先輩とともに、そんなことを言ってきた。別に聞きもしていないのに、変な気分になった。4歳上の先輩に目をやると、無表情だった。別に良いけど、ここ最近の謎な態度は一体なんなのだろうと、私は気を揉み出した。 次の日、出社した私は、4歳上の先輩に話しかける。 「今日の直し、ここからですよね?」 すると、先輩は、 「ええ、そう聞いてますけど・・・。」 なんか、そっけない。一体どうしたのだろう。 お昼の時間がやってくると、メンバー全員集まってお弁当やコンビニで買ってきたものを食べるが、4歳上の先輩は、私以外の人への態度は、非常に好意的だった。そして、なぜか、いつのまにか口数が増えている。まるで、私に対抗しているように見えた。そう、4歳上の先輩は、私と13歳上の先輩が急激に接近したこと、自分が会話の中に入っていけなかったことを、気に入らなく思っていたのだ。普段ほとんどしゃべらないくせに、気を遣って話しかけても、話題が続いたことがないくせに、何が気に入らないんだよ。別にしゃべれるなら、はじめからしゃべればいいじゃないかと、私は思った。そして4歳年上の先輩は、13歳年上の先輩にも、とても好意的な態度で、ものすごく話しかけている。ふだんあんなにしゃべっているところを見たことがない。とても仲良くなった13歳年上の先輩と私だったが、そこから13歳年上の先輩だけを取り返そうとしている、そんな風に見えたのだ。私は別に取ったわけでもなく、仕事を通じて自然と13歳年上の良いところを見つけて仲良くなっただけだった。でも、4歳年上の先輩に、そんなことをされて、気分が悪くなった。私も、13歳年上の先輩には、今まで通り好意的な態度を続けた。この状況は、まるで、大嫌いだった先輩の取り合いのような光景だった。予想外なことが起こるものだ。 その後、4歳上の先輩の信じられないような反撃が、数ヶ月続くことになるとは、このとき知りもしなかった。
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