1/1
前へ
/6ページ
次へ

 そうして戻ったアジトの宿舎。  奴等はいつも通りに私の部屋で屯して、各人自由に堕落していた。  ベルは髪の色と長さが変わり、パーマも掛けたのか? それが気に入っているのか、窓際に椅子とテーブルを置き、昼間からワイングラスにロスチャイルドを注ぎ、くるくると指に髪の毛を巻き付けて黄昏れている。 「お帰り、テル。どうだった? 私以外の屑と組んだ気分は」  自信たっぷりに黄昏れているので、無視した。  エゴイスト全開期のベルに付き合うと危険だ。十二時間くらい、自慰行為に付き合わされる。  聞こえない振りをしてベッドに潜り込んでしまおうとした、が、床に糞が転がっていて躓いた。  『糞』と書いてネルと読む女は、私の部屋ではいつも全裸。  こいつには羞恥心が無い。無駄に胸も尻もデカい上に、運動不足。  ノーブラ、ノーパン派というポリシーの為、まだ十五歳のくせに全力で重力に屈した怠惰な体。  貴族のような流麗な金髪が、世界で一番勿体ない奴だ。  プっと、音がして、ブブッブ、と音がする。  俯せ全裸で寝ころんでいる糞は、屁を持ってして私を迎えた。 「おけぇりぃ……の、……っほ」  また、ププっと屁をこいた。  肛門の異様な浮き上がりを察した私は、瞬時に反応する。  コンマ秒の動きでネルの背中に馬乗りになり、拳銃を取り出し尻の穴にぶち込んだ。 「二度目のヴァージンをくれてやる」  恰好つけて言ったが、ネルは気持ちよさげに顔を上げた。 「冷たくてぇ、気持ちいいのぉ。357じゃ、足りないのぉ」  駄目だ。変態だ。  入れる場所を間違えた。こいつは、前後が狂っている。  糞の付いた拳銃を投げ捨て、ベッドへ直行した。  こいつ等に不満をぶちまけたところで、逆に愛液をぶちまけられるのは私だ。私は、こいつらのペットじゃない。  ベッドへ飛び乗り、シーツで体をくるむ。  瞬時に深い眠りについた。  精神疲労が蓄積していて、ぐっすり昼過ぎまで熟睡した。随分長く眠っていたが、眠る以前と状況に差異が無かった。  エゴイストはワインを煽り、豚は床に転がっている。  二人は淡々と会話を始めた。 「ベリーが食べたいわ。ネル」  床でくたばっているネルは、「へぁ」っと言う。 「ベリー。野イチゴ。分かるわよね。木苺と呼んでも許すわ」 「今、冬……。クマさんの、胃の……イン」 「食べたいの。買ってきて」 「アマゾン、しろ」 「ワンクリックじゃ遅いの! 今よ!」 「ええん、どざえもーん、静香ちゃんがアル中でぇ、ホストクラブと豚小屋の区別がつかなくなったよぉ、ここは豚小屋だよぉ」 「貴女、私の妹よね」 「細胞分裂的にはぁ……私が一か月くらいお姉さんだよぉ」 「いいえ、貴女はホルスタイン。胸に分裂が消費された分、私の方がお姉さんよ」 「ええん、どざえもーん。時代を先取りした遺伝子差別主義者がぁ、品種改良を見下してくるよぉ」 「あぁ、なるほど。そんな時代が今日だとすれば、私が国連事務総長になる日も近いわね」 「ろくな未来じゃねーなぁ」 「そうね」  二人は沈黙した。  三分十五秒の沈黙の後、息を合わせたかのように会話を始める。 「山に行けば、獲れるかしら」 「熊、やれ。胃のあたりを、特にぃ」 「今の私じゃ無理。アル中よ?」 「シコって、出しとけ……」  ベルは暫し沈黙し、思い立ったように電卓を弾き始めた。 「じゃあ、勝負しましょう」  む。 「ベリー摘み。私に勝ったら、一万。どう?」  むむ。 「だりぃ……けどぉ」  ネルがガサっと起き上がった。 「単位はぁ」  うん。 「ドルで」  むむむ。 「国はぁ?」 「米で」  むむむむむ!  膝関節の音。ネルが、起き上がった。  私の足元に放り投げていたズボンを取り、履き始めた。 「ルールはぁ?」  うむ! 「いつも通り」  むむむむむむ! 「範囲はぁ?」 「ベネット山限定。で、どう?」  むむむむむむmymymymymmymymymymym……。  ネルは私が下敷きにしていたシャツを抜き取り、胸を張った。 「うっし! やったるかぁ!」  ホルスタインの尻を蹴り飛ばし、私の上半身は挙手をしていた。 「ちょっと待ったぁ!」 「ん? テルも、やる?」  ベルはごく自然にほほ笑んだ。  床に顔面を強打していたネルも、涙目でこちらを向いた。 「ゴリ、マッチョ……」  さて、どうか。思わずベルに食いついてしまった。  罠かもしれない。経験上、ベルの言い出したゲームなど概ね罠だ。  奴は、人類史上最悪のイカサマ師。  好条件が過ぎるゲームなど、餌である可能性が極めて高い。  でも、振り上げた拳は下せない。 「やる」  瞬間、凍てつく瞳が私を襲う。  傾国の魔女の口が歪む。 「いいよ。テルも、おいで」  金髪豚が、 「ぶひっ」  と、ほくそ笑む。  あれ? 何? この反応。  ヤバ……。  ハメられた?  私は順序を間違えていた。  許可なく動く暗殺者は、快楽殺人者(シリアルキラー)の未熟児でしかなかったのだ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加