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そうして戻ったアジトの宿舎。
奴等はいつも通りに私の部屋で屯して、各人自由に堕落していた。
ベルは髪の色と長さが変わり、パーマも掛けたのか? それが気に入っているのか、窓際に椅子とテーブルを置き、昼間からワイングラスにロスチャイルドを注ぎ、くるくると指に髪の毛を巻き付けて黄昏れている。
「お帰り、テル。どうだった? 私以外の屑と組んだ気分は」
自信たっぷりに黄昏れているので、無視した。
エゴイスト全開期のベルに付き合うと危険だ。十二時間くらい、自慰行為に付き合わされる。
聞こえない振りをしてベッドに潜り込んでしまおうとした、が、床に糞が転がっていて躓いた。
『糞』と書いてネルと読む女は、私の部屋ではいつも全裸。
こいつには羞恥心が無い。無駄に胸も尻もデカい上に、運動不足。
ノーブラ、ノーパン派というポリシーの為、まだ十五歳のくせに全力で重力に屈した怠惰な体。
貴族のような流麗な金髪が、世界で一番勿体ない奴だ。
プっと、音がして、ブブッブ、と音がする。
俯せ全裸で寝ころんでいる糞は、屁を持ってして私を迎えた。
「おけぇりぃ……の、……っほ」
また、ププっと屁をこいた。
肛門の異様な浮き上がりを察した私は、瞬時に反応する。
コンマ秒の動きでネルの背中に馬乗りになり、拳銃を取り出し尻の穴にぶち込んだ。
「二度目のヴァージンをくれてやる」
恰好つけて言ったが、ネルは気持ちよさげに顔を上げた。
「冷たくてぇ、気持ちいいのぉ。357じゃ、足りないのぉ」
駄目だ。変態だ。
入れる場所を間違えた。こいつは、前後が狂っている。
糞の付いた拳銃を投げ捨て、ベッドへ直行した。
こいつ等に不満をぶちまけたところで、逆に愛液をぶちまけられるのは私だ。私は、こいつらのペットじゃない。
ベッドへ飛び乗り、シーツで体をくるむ。
瞬時に深い眠りについた。
精神疲労が蓄積していて、ぐっすり昼過ぎまで熟睡した。随分長く眠っていたが、眠る以前と状況に差異が無かった。
エゴイストはワインを煽り、豚は床に転がっている。
二人は淡々と会話を始めた。
「ベリーが食べたいわ。ネル」
床でくたばっているネルは、「へぁ」っと言う。
「ベリー。野イチゴ。分かるわよね。木苺と呼んでも許すわ」
「今、冬……。クマさんの、胃の……イン」
「食べたいの。買ってきて」
「アマゾン、しろ」
「ワンクリックじゃ遅いの! 今よ!」
「ええん、どざえもーん、静香ちゃんがアル中でぇ、ホストクラブと豚小屋の区別がつかなくなったよぉ、ここは豚小屋だよぉ」
「貴女、私の妹よね」
「細胞分裂的にはぁ……私が一か月くらいお姉さんだよぉ」
「いいえ、貴女はホルスタイン。胸に分裂が消費された分、私の方がお姉さんよ」
「ええん、どざえもーん。時代を先取りした遺伝子差別主義者がぁ、品種改良を見下してくるよぉ」
「あぁ、なるほど。そんな時代が今日だとすれば、私が国連事務総長になる日も近いわね」
「ろくな未来じゃねーなぁ」
「そうね」
二人は沈黙した。
三分十五秒の沈黙の後、息を合わせたかのように会話を始める。
「山に行けば、獲れるかしら」
「熊、やれ。胃のあたりを、特にぃ」
「今の私じゃ無理。アル中よ?」
「シコって、出しとけ……」
ベルは暫し沈黙し、思い立ったように電卓を弾き始めた。
「じゃあ、勝負しましょう」
む。
「ベリー摘み。私に勝ったら、一万。どう?」
むむ。
「だりぃ……けどぉ」
ネルがガサっと起き上がった。
「単位はぁ」
うん。
「ドルで」
むむむ。
「国はぁ?」
「米で」
むむむむむ!
膝関節の音。ネルが、起き上がった。
私の足元に放り投げていたズボンを取り、履き始めた。
「ルールはぁ?」
うむ!
「いつも通り」
むむむむむむ!
「範囲はぁ?」
「ベネット山限定。で、どう?」
むむむむむむmymymymymmymymymymym……。
ネルは私が下敷きにしていたシャツを抜き取り、胸を張った。
「うっし! やったるかぁ!」
ホルスタインの尻を蹴り飛ばし、私の上半身は挙手をしていた。
「ちょっと待ったぁ!」
「ん? テルも、やる?」
ベルはごく自然にほほ笑んだ。
床に顔面を強打していたネルも、涙目でこちらを向いた。
「ゴリ、マッチョ……」
さて、どうか。思わずベルに食いついてしまった。
罠かもしれない。経験上、ベルの言い出したゲームなど概ね罠だ。
奴は、人類史上最悪のイカサマ師。
好条件が過ぎるゲームなど、餌である可能性が極めて高い。
でも、振り上げた拳は下せない。
「やる」
瞬間、凍てつく瞳が私を襲う。
傾国の魔女の口が歪む。
「いいよ。テルも、おいで」
金髪豚が、
「ぶひっ」
と、ほくそ笑む。
あれ? 何? この反応。
ヤバ……。
ハメられた?
私は順序を間違えていた。
許可なく動く暗殺者は、快楽殺人者の未熟児でしかなかったのだ。
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