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5
「ねぇ、テル。なぜ高床じゃないの? ここ」
「野営地が、高床なはずがない。敵に見つかる」
「泥水の上に、よく座れるわね。入っちゃうよ」
「狙撃手にとって、泥水は天恵。胃のもたれるだけの、水」
「じゃあ、雨水は?」
「聖水」
「浴びながら帰ったら?」
「嫌」
「健康だけが、テルの取柄じゃない」
「嫌」
雨の雑音を理由にして、私は顔を膝に埋め、聴こえない振りをした。
如何にも子供染みた反応が、嫌になる。
私の耳が、これしきの雨で濁るはずが無いと、私が一番知っている。当然、こいつは熟知している。
いい加減、私も気付いていた。
奴等が、ここへ私を連れてきた理由。
奴等が、何を取り合っているのか。
「もう、こんな森じゃ、テルの背中は守れない。私だけが、貴女を理解しているのよ」
普段ならば、別にそれはどうでも良かっただろう。二人と私では、能力の種類が違う。二人は知能犯、私は実行犯。だから自ずと、ターゲットが違う。
でも、今、この場所で、私だけを排除して欲しくない。
私だけが、ゲームに参加していない。
悔しくて悔しくて、目が痛む。
遠くから、足音が近づいてくる。
一度下山していたはずだが、なぜか、戻ってきた。
ネルは傘を差し、山小屋の前で立ち止った。
顔が見えない。
でも、笑っていない。
珍しい。
「大人になっても、良い事ないのに」
ベルが苦笑した。
「見苦しいわよ、ネル」
ネルは無視して、私の前の泥水へ、黒い軍服を放り投げた。
「着とけ。さみぃから」
泥水の中に投げたクセに、何を言っている。
「あ?」
いつも通り睨んだが、いつも通りのはしゃぎ声は返ってこなかった。
ネルは去って行く。
ベルは嘆息し、示唆でもするように、胸に手を当てた。
「仕方がないじゃないの、ねぇ?」
私の胸はブラックベリーを握りつぶし、真っ黒に染まっていた。
「私達、子供のままで居られないのよ。あいつみたいに」
残ったベリーを放り投げ、泥に浸かった軍服を踏みつけ、私は走った。
山頂へ向かい、雨を顔に打ち付け。
足を滑らせ、転倒した。
コケるなんて、何年来だ?
白い服が煤だらけになった。
なんて、馬鹿々々しい姿だ。
ベルがやってきて、軍服を差し出した。
「着なさい。風邪、引くから」
「嫌だ!」
「同じ事でしょ?」
「嫌だ!」
ベルは私に寄ると、ナイフで服を裂き、頭から軍服を着せていく。
抵抗できず、私は泣いた。
今日は、私がここへ捨てられ、丁度十年目の誕生日。
もう、分かっていた。
この山火事は、悪趣味な誕生日プレゼントだという事を。
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