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防弾防火仕様の野営地、と恰好を付けているのは私だけで、これは只のボロ小屋に過ぎず、焦げ付いた板目の壁から吹き込む雨に、心底苛立っていたのは私だけだった。
山の斜面から流れ落ちる泥水が容易に侵入し、三角座りで置いた尻のパンツを濡らした。
「ねぇ、テル。なぜ高床じゃないの? ここ」
吹き込む雨の当たらない場所で、ベルは霞むような薄茶色の髪を揺らせ、スレンダーな体躯をより長く魅せる、腕組み仁王立ちポーズで私に言った。
「野営地が、高床なはずがない。敵に見つかる」
顔を向けず、無骨に答える。
託けてみても、ベルには効きやしないだろうけど。
「泥水の上に、よく座れるわね。入っちゃうよ」
知るか。下ネタしか言えないのか、糞ビッチ野郎。
「狙撃手にとって、泥水は天恵。胃のもたれるだけの、水」
冷徹な怒気を含ませたが、ベルは取り合わない。
「じゃあ、雨水は?」
「聖水」
「浴びながら帰ったら?」
会話を続けるな。
私に、話しかけるな。
「嫌」
「健康だけが、テルの取柄じゃない」
わなわなと震えた。
「嫌」
これは吹き込む雨と、冬の気温が為すものだ。
私は寒いだけ。
寒いから、震えているだけなのだ。
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