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「謝るのはええ、高札に何て書いたんじゃ? 喜兵衛は、五日後に金倉橋で午の上刻においを同じ目に合わせるそうじゃ。己の最期がどんなもんか、気になるじゃろ?」
弁助はさばさばと言うが、又八は真っ青になり、わなわなと震えた。
「弁助ちゃん、おいは、おいは、何て事を……。嗚呼ぁ」
又八が大声で叫びそうだったので、弁助は慌てて親友の口を塞いだ。眼力で落ち着かせ、正気に戻す。
「又やん、ええか。明け烏みたいにぎゃーぎゃー鳴くな。泣きたいのはこっちなんじゃ」
弁助の言葉で、又八は冷静になった。大きな目を見開いたまま、大きく頷く。弁助は、又八の口を塞ぐ手を降ろした。
「で、高札には何と書いたんじゃ?」
「『頭カチ割って小便かけてやる』そう書いた」
「随分と豪気な台詞を書いたんじゃのう」
弁助は豪快に笑うが、又八は申し訳なさそうにしている。
「弁助ちゃん、おいが喜兵衛に土下座して謝る。それで事は収まるじゃろ?」
又八の申し出に、弁助は懐疑的だった。
「いや、そうも行くまい。もう武士同士の意地の問題じゃ。おいも侍じゃからのう」
弁助は覚悟を決めていた。だが、又八の不安を和らげる優しさも見せる。
「心配すなや、又やん。おいが喜兵衛に敵わないと判断すれば、代わりに親父が仕合してくれる。大丈夫じゃ」
弁助の言葉に、又八の顔が綻んだ。
「じゃぁ、すぐに代わって貰ったらええ。弁助ちゃんそうしい」
又八の説得する様な言葉を、弁助が否定する。
「いやいや、そうも行かんよ。まずは自分で見極めてからじゃ」
「で、どうするんじゃ?」
「決まっとるじゃろ、善右衛門の家に逗留しとる喜兵衛を見に行くんじゃ。お通の伝手で何とかなるじゃろ」
弁助と又八は、大庄屋の善右衛門を訪ねる事にした。
善右衛門の屋敷に行くと、都合よく朱美が用水路で野菜を洗っていた。
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