ネジ人間

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 彼は来る日も来る日も機械の中の一個の部品であるかのように働き、或る朝も目覚まし時計のベルの音に叩き起こされ掛布団を跳ね除けると、今日も今日とて同じことの繰り返しが始まるかと思いきや、自分が製造担当するM2サイズのネジになっている自分に気づいた。  で、会社人間を通り越して社畜である彼は、真っ先に無断欠勤になってしまうと恐れ、焦った。  会社の始業前の時刻になって呼び出しの電話が鳴ってもどうすることも出来ない自分に苛立ち、途方に暮れた彼は、アパートに独り暮らしで親も兄妹も親戚も遠くにいて親しい仲間も近くにいないから最早、会社の人間が訪ねて来ない限り発見されるには至らない存在、否、発見されても彼と認識されない存在となった。  当然、不審に思い、痺れを切らした工場長は直接訪ねに行くもネジに口がある筈はなく返事を聞くことも出来なければ鍵がかかっていて中に入ることも出来ない。  何日経っても出勤せず連絡が取れないものだから会社は警察に捜索願を出した。  まず警察がやったことはアパート管理人から借りた鍵を使って彼の部屋の玄関ドアを開けることだった。  警察はベッドの上にポツンとあるネジには目もくれず、彼を無論、発見することは出来なかった。  その時点で彼は完全に行方不明者となった。  と同時に彼は誰にも相手にされず誰の役にも立たない存在となった。  役に立つとすれば、何かを取り付けるための一個の部品として使われるしかない。  それはネジとなった以前から彼の本望だったのかもしれない。    
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