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親族だけを集めた教会での式は滞りなく進んだ。教会に隣接する披露宴会場へ向かった。会場はガラス張りのレストランで、結婚式用に丸テーブルが何十台も設置されており、すでに式に参列していなかった新郎新婦の友人や会社の同僚たちが決められた席次についていた。会場の中央を横切り、参加者一人一人に笑顔を振りまきながら、詩織と和久は会場の一面に大きく設置されたプロジェクタースクリーンの前に進んだ。スピーチ原稿の準備された譜面台とスピーチマイクの前に立ってしばらくしてからも、心から二人を祝福する割れんばかりの拍手がしばらく鳴り響いた。 「皆さん、ありがとうございます。」 和久が手を上げて止まない拍手を制した。 「えー、この度は、私河野和久と妻詩織の結婚披露宴にご出席いただき、誠にありがとうございます。」 和久の低く落ち着いた声に会場は一瞬で落ち着きを取り戻す。若年ながら、深みのある新郎の声に瞬時に参加者たちは聞きいってしまった。結婚式恒例の挨拶も長すぎず、短すぎずそつなくこなした。その後の新郎の高校時代の友人によるバンドの出し物もケーキカットも順調に和気あいあいとした雰囲気の中で進行した。 さあ次は、歓談の時間というころに、スーツ姿のウエディングプランナーがしずしずと和久たちのいるスクリーンに近寄ってきた。 「実はですね、ここで新婦のお姉さまよりサプライズがございます。」 詩織はドキリとして、一番手前中央のテーブルに両親と座っている姉を見た。正直、この姉とはあまり折り合いがいいとは言えない、家族一同からではなく、姉からとは一体どういうサプライズだろうか、と詩織は訝しんだ。落ち着いたワインレッドのブラウスに身を包んだ姉が物腰柔らかく立ち上がると、スクリーンの前に近づき、プランナーからマイクを受け取った。ほどなくして、10年ほど前に爆発的に流行した覆面バンドのヒット曲がオルゴールサウンドでひっそりと会場に流れてきた。 そして、姉の背後のスクリーンには、年末、家の玄関の前で撮った家族写真が拡大されて映し出されている。 「お集まりのみなさん、詩織の姉、千春と申します。本日は天候にも恵まれた今日の良き日に妹詩織の結婚式が無事に挙行され、姉として嬉しく思います。と、ここで少し、私の家族について紹介したいと思います。今、スクリーンに映っているのが、私のささやかな家族、父博文、母彩子、そして妹詩織と私です。」 会場からは、微笑ましく感じているような落ち着いた笑い声が聞こえる。詩織は姉が何をするつもりだろうかと気が気ではなかった。何せ、幼いころから何かと競い合っていた二人だったから。 「実際、この私と妹はずっとライバルでした。それを実感したのは、あの子が私たちの家に来た初日、些細なことでしたけど、あの子が冷蔵庫にとっておいた私のプリンを勝手に食べたことでした。」 詩織は耳まで真っ赤にしながら、ギリッと下唇を噛んだ。会場からは、笑っていいものかどう反応したものか居心地の悪いざわめきが漏れる。姉、千春の言った意味を図りかねている参加者もいるようだ。千春のバカ、と詩織は心の中で毒づいた。何でこんな時にそんなことを言うの、お姉ちゃんのブス、お姉ちゃんなんて一生結婚できなきゃいいんだ。 「喧嘩すると、お姉ちゃんのブス、というのがこの子の決まり文句でした。皆さん、御覧のように私はとてもではありませんが、容姿に恵まれている方ではありません。平たく言ってブスです。対して詩織はどうでしょう、まさに五月のバラのようではありませんか。ピンクのブランドドレスを着こなす様はモデルか映画女優のようではありませんか。それもそのはず、詩織は私の本当の妹ではないのです。父とも母とも血はつながっておりません。施設から両親が引き取った子なのです。」
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