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「女にとって勉強できることが何になるのだろう、と人生の若輩者ながら、悶々とする日々でした。男とは常に女性よりも優位に立ちたがる生き物だということはこの時分より本能的に察しておりました。私は、勉強については学年トップでした。スポーツも女子の中では、運動部に負けないほど、できました。しかしそれが何になるというのでしょう。見目が人並みであれば、申し訳程度にでも顔が容姿に恵まれていれば、それも高嶺の花となりえたかもしれません。しかし、私は学校一の秀才で、学校一のブスでした。私をやっかむものさえあれ、誰が私を相手にするというのでしょう。どんどん私は卑屈になり、自分の殻に閉じこもるようになりました。学校の女子と取っ組み合いの喧嘩になったこともあります。対して、妹は勉強もスポーツも人並み以下。それでも花の香るような笑顔を振りまけば、自然と取り巻きに囲まれます。みんながチヤホヤしてくれます。私とはまるで雲泥の差でした。さらに屈辱的だったのは、私がごくたまに憧れていた人や珍しく仲良くなった男子はことごとく詩織に夢中になってしまうのです。あの頃は私の人生最悪の時代でした。勉強がいくらできても、女としての価値なんてないんだという考えがじわじわと刷り込まれていくのを感じました。」
黙って聞いているしかないのが、詩織にとって屈辱だった。まさか自分の姉がこんなことまでするとは思っていなかった。人生で最高に日、やっと掴んだ幸せへの第一歩となる一日が姉のせいで台無しになってしまった。何で、お父さんもお母さんも何も言わないの、と思った。ただ、自分から進行をぶち壊すような真似はしたくなかった。それが花嫁としての最後の矜持だった。
「思春期以降、家でもまともに口も聞いていませんでした。たまに会話をしたかと思えば、お互いの口から飛び出るのは罵詈雑言ばかり。私は、彼女の頭の悪さを罵り、彼女は私の見た目をひたすら罵倒しました。一つ屋根の下にいることも苦痛でした。私の両親は、詩織の見た目に惑わされて、詩織を引き取ったんだと思っていました。」
違う、違うの。お姉ちゃん、私はそんなんじゃなくて。詩織は目の前が真っ暗になりそうだった。それは、怒りか絶望か、あるいはその両方であった。詩織は吐き気と頭痛で倒れそうだった。そして気づかないうちに和久の手が背中に添えられていた。
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