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姿見の前でくるりと一回転すると、詩織はドレスの着こなしを確かめた。とてもよくお似合いですよ、というプランナーのお決まりの文句を背中で受けながら、詩織は内心まんざらでも無かった。実際-自分の容姿というものは死ぬまで客観的に見つめることなどはできないものだが、-詩織はとてもかわいかった。特に、プリンセスドレスを完璧に着こなす姿は、西洋人形のようだ。レンタル品の中でも最高級のものだったが、両親に頼み込んで、結婚式の費用を三分の二ほど借りたのだった。夫の和久も社内では出世株として期待されていたが、それはゆくゆくの話で、莫大な結婚費用を捻出できるほどではなかった。そして、両親は可愛い詩織の頼みなら全てを聞いてきた。詩織も、内心はこれじゃ悪いと思いつつもついつい長年の惰性か、折々で両親の援助をあてにしてしまう癖がついていた。  ゴールデンウイークの大安で、最も式場が高い日程を抑えていたのは、遠方の友人も余裕を持って参加できるようにという配慮と、何より五月の陽光と花々に彩られた空気感の中で式を挙げたいと思ったからであった。教会で式を挙行した後は、海を臨む半屋外式のガーデンテラスで披露宴を行うことになっている。控室に入る前にチラッとテラスを覗いてみたが、雲一つないカラリとした青空に太陽の光をキラキラと反射している太平洋、バラのアーチや風船が明るい陽射しの中で二人の門出を祝福してくれているようだった。まさに絵に描いたような結婚式、完璧な一日になる予定だ。ところが当の詩織本人は、女の子の人生で最高の一日などと言われるが、控室の新婦には慌ただしさと緊張で、いまいち実感がまだ湧かないのである。  コンコンと控室を控えめにノックする音がした。 「詩織、入ってもいいかな。」 「どうぞ。ちょうどウエディングドレスに着替えたとこ。」 ガチャリとドアを開けると、タキシードに身を包んだ新郎、和久が顔を出した。試着の時にも見ていたけど、身長も肩幅もちょうどバランスよくついている和久のタキシード姿は本当に絵になる。詩織は不覚にもドキリとしてしまった。 「・・すごく、キレイだよ。詩織。」 「ありがとう、和久もすごくかっこいい。」 今さら、幸福感がしみじみと春の陽光のように詩織の心に染みわたっていく。女の子に生まれてよかったと人生で最も強く感じた瞬間だった。 「緊張するね。」 「うん、でも私今、すごく幸せかも。和久君、私と結婚してくれて本当にありがとう。」 詩織は、薄桃色のシルクの手袋をつけ、プリンセスのように和久の手を取り、会場へと向かった。
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