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ゾラに適当な店で色々なものを買ってきてもらい、裏路地で貪り食っていた。最近は明星街で食事をすることにも抵抗がなくなっている。体質のせいで店に入ることはできないが、こうして買い食いするくらいなら許されるだろう。
一気に頬張ったものを全て嚥下して、ようやくゾラが一息ついた。
「……ユウヤと歩いてると、ドゥーショの人間が近づいてこないな」
「あァ、随分と歩きやすくなったもんだ」
「俺たちも街に出やすくなった」
「それは、狙ってやったわけじゃないんだが」
「暁闇街の英雄だ」
「大袈裟だし、不本意だ」
しかし、と俺は中華饅を頬張る。
思い出すのはハオのことだ。
「……あまり思い出したいわけでもない」
彼の安否を未だに案じている自分がいた。フェンは大丈夫だと言っていたし、ハオ自身にも釘を刺しているので大丈夫だとは思うが――万が一のことを考えると、憂鬱になってしまう。
ゾラは俺を一瞥して、残りの中華饅を全て口に入れた。「あッお前」そう言っている内に、それらは彼の胃袋に消えていく。
「俺の金だったんだが」
「元は誰かから巻き上げた金だろ」
「もらったんだから、俺のものだろ」
「ゴチになりましたぜ、今度も頼むよ」
二度とねぇよ、と俺はゴミをまとめて、近場のダストボックスに突っ込む。何日も回収されていないのだろう、蓋を開けた瞬間、腐臭が鼻をついた。
それで、どうするか――と二人で顔を見合わせた。しかし特にやることもなく、表通りを散歩することになる。
しばらく行くあてもなく二人でほっつき歩く。先に口を開いたのはゾラであった。
「……なァ、フィラフトが死んだってことは、エクヴォーリはどうなるんだ?」
俺も先ほどから考えていることであった。アジトを捨てて廃教会に集まっているということは――つまり何かしらの武力行使に出る可能性が高いだろう。
もっとも、冷静な思考を持っていれば、ドゥーショへの特攻など考えることはないはずだ。勝てる見込みがないのだから。
だが――と考えて、俺は立ち止まる。ゾラもつられて立ち止まり、訝しげに俺を覗き込んだ。
視線の先には、ビスケットを配る少年がいた。
かつてのフィラフトも、そうしていたことは知っている。ストリートチルドレンにビスケットを配る、俺はそれを一つの偽善的な活動だと断じていたが、その真意はどこにあったのか――終ぞ分からぬままだ。
そのフィラフトを喪ったとあれば、正気ではいられないだろう。抗争に発展するのも時間の問題なのかもしれない。
「……ゾラ、お前もらってこいよ」
「ユウヤは行かないのか」
「いい歳して貰うほどでもねェしな」
彼の背中を押して、自らは物陰に隠れる。ゾラと少年が二言三言交わし、袋を渡されこちらに戻ってくる。
「何、話してたんだ」
「あの子の名前。チーシャオ、だってさ」
「……中国系か。変わった名前だな」
言いながら、ゾラの袋からビスケットを三枚ほど取り上げる。
「もう一つもらってるけど」
「なんだ、先に言えよ」
差し出された袋を受け取り、一枚だけ口に運ぶ。
塩っぽい味がした。
「……俺、これ苦手かもなァ」
呟いて、残りの袋をポケットに押し込んだ。ゾラが俺にくれよ、と抗議してくるが、非常食くらいにはなるだろうと思って無視した。
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