無明長夜

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無明長夜

**********  右手に2Lのペットボトルを持って、家に帰ろうと思っていた。そのことばかり考えようと努めていたつもりだったが、何か思うところがあるのか――無意識に足はドゥーショ本部の方に向いていた。  雨が降っていたために、地面は多少ぬかるんでいた。普段は見ないような車が何台も流れていくのを見た。恐らくはエクヴォーリ関連だろう。つまらない戦争でつまらない死に方をしていくのだろう。  廃材塔の輪郭が、近づくにつれはっきりと見えてくる。自然と足取りは重くなる。当然ながら気分は最悪だ。それでもここに足が向いたのは、――否、全て気づいていないフリをしよう。  ドゥーショ本部の入り口まで来て、すぐに折り返し帰ろうと思っていた。思っていたが――その門扉を見て、俺はペットボトルを落としてしまった。一瞬の躊躇の後、想いを振り払うように全身を透明化し、中に入る。 「ヒューゴ……ッ」  誰も彼も大馬鹿野郎だ。  自棄になって挑む戦いがあるか。  廊下を駆けながら考える。雑魚たちはヒューゴが一掃しているようで、そこら中に死体が散らばっている。どんな剛力で暴れたのか、奥に進むにつれ腕や足の破片が多くなっていく。  階段を駆け上がる。足音を極力立てない。最上階がザノの部屋だ。ヒューゴもそこにいるだろう。  ――クソッ、なんで俺はこんな所に……。  数分前の自分を恨みながら、俺は拳を握りしめる。階段が終わった。最上階だ。廊下は真っ直ぐだ。ザノの部屋まで走る。そこに扉はなかった。部屋の中には二人の男がいた。  ヒューゴが倒れていた。  ザノが拳銃を持っていた。  その銃口はヒューゴに向いていて――。 「――ッ!」  大きく踏み込んで、延髄斬りの要領でザノの後頭部目掛けて蹴りを放つ。透明化は続けている。流石のザノでも一発でダウンだろう――。 「久しぶりだな、ユウヤ」  視界が反転した。  蹴りを繰り出した足を掴まれ、勢いのまま半回転。受け身も取れないまま床に叩きつけられる。 「なッ――」  バウンドするように、ほんの少し宙に浮く。腹部目掛けて拳が飛んでくる。「ゔっ」寸前でガードしたが、後ろの壁に叩きつけられた。 「……オェッ」  胃の中の物が一気に出てくる。胃が痙攣している。透明化を解除し、床にうずくまった。 「シドが世話になったな」 「ッ……」  声が出なかった。すぐに、今は少しでも回復せねばなるまいと、沈黙を決め込んだ。 「不意打ちに関してお前は脅威だからな、ずっと警戒していたよ。まァ安心しろ、殺す予定はない」  呼吸が楽になってきた。ゆっくりと顔を上げるが、ザノはまだ距離をおいていた。――好都合だ。 「……ヒューゴがお前に会いに行ったと小耳に挟んでな、きっと来ると踏んでいた」
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