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無明長夜
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右手に2Lのペットボトルを持って、家に帰ろうと思っていた。そのことばかり考えようと努めていたつもりだったが、何か思うところがあるのか――無意識に足はドゥーショ本部の方に向いていた。
雨が降っていたために、地面は多少ぬかるんでいた。普段は見ないような車が何台も流れていくのを見た。恐らくはエクヴォーリ関連だろう。つまらない戦争でつまらない死に方をしていくのだろう。
廃材塔の輪郭が、近づくにつれはっきりと見えてくる。自然と足取りは重くなる。当然ながら気分は最悪だ。それでもここに足が向いたのは、――否、全て気づいていないフリをしよう。
ドゥーショ本部の入り口まで来て、すぐに折り返し帰ろうと思っていた。思っていたが――その門扉を見て、俺はペットボトルを落としてしまった。一瞬の躊躇の後、想いを振り払うように全身を透明化し、中に入る。
「ヒューゴ……ッ」
誰も彼も大馬鹿野郎だ。
自棄になって挑む戦いがあるか。
廊下を駆けながら考える。雑魚たちはヒューゴが一掃しているようで、そこら中に死体が散らばっている。どんな剛力で暴れたのか、奥に進むにつれ腕や足の破片が多くなっていく。
階段を駆け上がる。足音を極力立てない。最上階がザノの部屋だ。ヒューゴもそこにいるだろう。
――クソッ、なんで俺はこんな所に……。
数分前の自分を恨みながら、俺は拳を握りしめる。階段が終わった。最上階だ。廊下は真っ直ぐだ。ザノの部屋まで走る。そこに扉はなかった。部屋の中には二人の男がいた。
ヒューゴが倒れていた。
ザノが拳銃を持っていた。
その銃口はヒューゴに向いていて――。
「――ッ!」
大きく踏み込んで、延髄斬りの要領でザノの後頭部目掛けて蹴りを放つ。透明化は続けている。流石のザノでも一発でダウンだろう――。
「久しぶりだな、ユウヤ」
視界が反転した。
蹴りを繰り出した足を掴まれ、勢いのまま半回転。受け身も取れないまま床に叩きつけられる。
「なッ――」
バウンドするように、ほんの少し宙に浮く。腹部目掛けて拳が飛んでくる。「ゔっ」寸前でガードしたが、後ろの壁に叩きつけられた。
「……オェッ」
胃の中の物が一気に出てくる。胃が痙攣している。透明化を解除し、床にうずくまった。
「シドが世話になったな」
「ッ……」
声が出なかった。すぐに、今は少しでも回復せねばなるまいと、沈黙を決め込んだ。
「不意打ちに関してお前は脅威だからな、ずっと警戒していたよ。まァ安心しろ、殺す予定はない」
呼吸が楽になってきた。ゆっくりと顔を上げるが、ザノはまだ距離をおいていた。――好都合だ。
「……ヒューゴがお前に会いに行ったと小耳に挟んでな、きっと来ると踏んでいた」
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