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「進級試験」
今日もこの魔法学校では優秀な魔法使いを目指して、みんな頑張っています。
は~い、注目! 先生はそう言ってこの時間の説明を始めました。
……長かったので省略します。メガネの似合う、美人だけど話下手なちょっと残念な先生なのです。
ようするに、
・男女2人1組でペアになって相手ペアから「より大事な何か」を取ったペアの勝ち。
・判定基準は相手ペアが”返してほしい”と言うか言わないか。
・腕とか内臓とかを取って相手を傷つけたり殺したりしてはダメ。
・誘惑して心を奪ったりするのもこの試験では認めません。
・判定の難しい場合は先生の適切な”独断”で決めます。
・制限時間は5分間。
・負けたペアは留年。
ということでした。
この進級試験を受けるのは、男子はキュトくんとトゥリくん、女子はジェヌちゃんとピュクちゃんの4人。
グーパーをして「キュトくんとジェヌちゃん」「トゥリくんとピュクちゃん」のペアに分かれました。
先生がストップウォッチをカチっと鳴らすと、まずは女子同士が詠唱を始めました。
中学年終わりから高学年くらいの女子の詠唱の声はこの先生の大好物らしく、バレないようによだれをすすっていました。
今回は最後の補習授業。そして進級試験です。
進級か留年か…。2人の顔は真剣です。
詠唱を終えて、一瞬ポンっと煙が出たかと思うと、2人はそれぞれ何かを持っていました。
ジェヌちゃんは『ピュクちゃんの先週の英語のテスト(2点)』
「どう? これおばさんに見せられたくないでしょ!」
いっぽう、
ピュクちゃんは『ジェヌちゃんの先週の数学のテスト(3点)』
「フン、補習受けたからもう関係ないしぃ、あんたこそ点数x100エンが小遣いなんでしょ、いいのぉ?」
知能指数が近い2人です。
男子は愕然としました。
(こいつら馬鹿か!)
キュトくんは考えます。1つ下の妹と同学年になってしまうため、留年は絶対回避せねばなりません……。
(どうしても返せと言わせられるもの……。なんだ? 考えろ、落ち着け……)
トゥリくんも必死です。大好きな同級生の女子が先輩になってしまうかもしれません。
(なんだよ、このままタイムアップに持ち込んで「大事な時間を奪ってやりました」とか言うか? いや、座布団すらくれないだろ……)
二人はチラチラと先生を見ながら、たどたどしく詠唱を始めます。
男子の詠唱に興味がない先生は、歯をキリキリと鳴らしながらメガネのレンズを拭いています。
詠唱が窓ガラスをピリピリと振るわせます。
進級が、かかっています!
男のプライドが、かかっています!
ポンと煙が出たあと2人が手にしていたものとは!
キュトくんの手には『カップの浅そうなスポーツブラ』
トゥリくんの手には『なんの飾りもない無地のパンツ』
思春期の近い2人でした。いえ、もう思春期ですかね。
男子はお互いドヤ顔で相手ペアの女子を見ます。というよりか、イヤラシイ顔で、ですね。
でも、すぐにお互いの手にしているものを見ると悟ったような顔になりました。
(……引き分けか)
男子は”激戦の後のリスペクトしあう男”のような表情になりました。
女子はきょとんとしています。
カチっとストップウォッチを鳴らし先生が、はい終了、と低い声で言いました。
先生はツカツカと男子に近寄り、はい渡しなさい、といってブラとパンツを受け取ると、すぐにポケットにしまいました。
そして先生はそのまま教室から出ていってしまいました。
(先生の女子好きもここまでくると、いっそ清々しいな)
戦友となった男子たちは思いました。
再試験もなく4人は留年が決まりました。
ジェヌちゃんとピュクちゃんは、キュトくんとトゥリくんをボコボコにしました。
男子が手にしていた下着は先生のものだったのです。
いろいろな物語で描かれる”うっかり下着泥棒”、魔法勉強中の事故としては実際によく起こります。
奪取魔法に限らず狙いが外れることは珍しくありません。
それに彼らは、まだまだ未熟者なのですから……。
今日もこの魔法学校では進級をかけて、みんな頑張っています。
(おしまい)
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