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家の前の通りを歩く。駅から離れ、人の気配はない。
もうすぐ家に着く。
小松の悲しみは少しも和らがなかった。
そして正面から話しかけられていることにも気がつかなかった。
「ちょっと、その自転車貸して!」
無精髭が生えた背の高い男が小松の自転車に掴みかかった。
「どうして……」
男は目を真っ赤に腫らした小松の顔を見て、ぎょっとする。
「君、大丈夫?」
「何でなんですか……」
どうして彼女と離れなきゃいけないんだよ。
「すまんな、ちょっと窃盗団を追いかけてて」
俺、体力ないから。自転車欲しいかったんだよ。
男は勝手にべらべら喋った。
「俺、こう見えても探偵なの」
たん、てい?
こっちは人生最大の悲しみの中にいるんだ。さらに非日常をぶつけないでほしい。
小松は混乱した。
「どうぞ、勝手に追いかけてください……」
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