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今ならわかることがたくさんあった。
夫が小島香菜子の名前に反応したのは、とっさに職場での自分に対する振る舞いが脳裏に浮かんだからだ。
彼女を知らないと言ったのは、私に余計な心配をかけたくなかったからだ。
それから、小島香菜子の言動の意味も。
彼女があそこまで堂々と、不自然なほどに完璧な笑みを浮かべていたのは、全てが演技だったからだ。
それでも、彼女は何一つ嘘はつかなかった。
名前や年齢はもちろん、夫との関係が「上司と部下」だというのも本当だった。
夫を「解放する」ことが自分の役目だと言ったのすら事実だったのだ。
彼女の役割は、夫を昇進争いから引きずり下ろす──解放することだったのだから。
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