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「──ねえ、小島さんって知ってる? 小島香菜子さん」
私はタイミングを見計らい、それとなく尋ねてみた。
かくなるうえは直接探りを入れるしかない。
もちろん、彼女が会いに来たことはとりあえず伏せておくけれど。
「え? ……いや、知らないけど」
「……そう。なんか知り合いにいたような気がしたんだけど……私の勘違いか」
私はすぐに興味を失ったふりをして話を変えた。
けれど心臓がバクバクと暴れている。
これでも長年夫婦として一緒に過ごしてきたのだ。
だからわかってしまった──ほんの一瞬、その顔に緊張が走ったことが。答えるまでにほんの少し、間があいたことが。
小島香菜子を知らないというのは、嘘だ。
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