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序章/1
晩秋──冷たい風が一吹き、二吹きする季節。
静かな静かな田舎町の片隅に、自転車を押して歩く少年がいた。髪は月色、目は鳶色をした彼の周りは、まったくの無人である。
市街地から遠く離れたこの町には、広大な田畑がある。幅広な河川もある。岸と岸とを結ぶ細い橋もある。けれど、人家の姿はほぼ見受けられない──「申し訳程度に点在している」と表現しても、差しつかえがないほどだ。
草木の香りが漂うあぜ道を頼りなく歩きながら、少年は、
「……疲れた」
と呟いた。彼の目尻は眠気に引きずられ、重く垂れている。
「部活だけでも大変なのに、塾にも行かなきゃいけないなんて、まったく嫌になるよ」
ハンドルを握りしめたたまま、彼は口を動かした。
「受験生ってのも辛いね。……でも、春が来るまでの辛抱だ」
語る間も、足は止めない。「カラカラ、カラカラ……」と車輪の回る音だけが、聴覚を微妙に揺るがす。
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