第一章/28

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第一章/28

「君が無事でよかった。本当に、よかった」  秋吉らの後ろ姿を見送ったのちに保健室へ向かい、事情を告げたところ、双子の兄はそう言った。 「弟が危険な目に遭っているときに、貧血起こして気を失っていただなんて……。まったく、自分が情けないよ……」  ベッドの上で上半身を起こしながら、兄が微笑する。 「べつに……。真朝(まあさ)が気に病むことはないさ。これはあくまで、俺と竹中たちの問題なんだし」 「でも、……兄として、なにもしてやれないなんて歯がゆいよ。なんだか、すごく悔しいな」  言って、真朝が、学校指定の通学カバンを手に取る。その動作は、平安貴族のように雅やかであった。  おなじ顔とおなじ容姿を持ってはいるが、ふたりの性格はまるで正反対であった。  かたや勉強が苦手で、スポーツが得意で、直情型の真昼。  かたや勉強が得意で、スポーツが若干不得手で、思慮深い真朝。  真珠色の肌、月色の髪、鳶色の瞳と外見(そとみ)を構成する要素は同一(どういつ)であるのだが、いかんせん、両者の中身はいちじるしくかけ離れていた。
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