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僕と彼
僕が彼を見かけたのは鬱屈した高校生の閉塞感がまるで密閉された瓶の中いる様に渦巻いていて、ついに自己肯定感やら存在証明やら社会情勢やら有名人の失態やら無名の誰かの歌やらに熱せられて膨張した空気が隙間のない瓶の蓋をこじ開ける如くに夜道に飛び出した時の事だった。
僕は深海から息継ぎをする為に海上へあがってきたクジラの様に深呼吸をした。
夜の空気がまるで新鮮な水の様に肺に入っては熱気を冷ましてくれる。
月は満月に近く電灯がなくても歩くのには困らない程度に明るい。
昔の人は電灯なんてないので、夜に出歩くのは月が出ているかどうかで随分違ったんだろうと夢想する。
もっとも夜に出歩くなんて、よほどの事だろう。
急ぎの旅か、でなければ、進軍か、闇討ち。
強襲ならばむしろ月明かりがない方が有利とも思えるが夜の闇は人間ばかりが敵でもないだろうし、仲間がいるなら同士討ちを避けなければならないだろう。
そんなよしなしごとに囚われていると近くの公園まで辿り着いたが先客がいる事にたじろいだ。
先客は月を見上げていた。
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