10年ぶりの元恋人同士はどうなるのか

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10年ぶりの元恋人同士はどうなるのか

「もう行くの?」由紀はその返事を聞くのがまるで武史からの最後通告のように思えて、本当に小さな声で尋ねた。実際、由紀の声は震えていたのである。 「いや。まだ大丈夫だ。時間はまだあるよ。しかし雨もだんだん凄くなってくるね。」武史はそう言いながら喫茶店の窓の外に目をやった。2人でその喫茶店に入った時はまだ小雨だったのに、いろんな事を話し込んでいるうちに、だんだん本降りになり、喫茶店の外の植え込みにも雨が凄い勢いで打ち付けていた。「雨止みそうにないね。」武史は言った。 由紀も外に目をやりながらこう思った。「まるで私の気持ちだわ。」 由紀と武史がこうして2人きりで会うのは実に10年ぶりであった。2人は学生時代に恋人同士だったが、先に社会人になった武史が地元から転勤になった。由紀は遠距離の寂しさのあまり武史のことで疑心暗鬼になり、それが辛くて2人は別れた。別れを言い出したのは由紀の方である。「俺たち別れる必要が本当にあるのかな?」武史の電話での最後の言葉を由紀はこの10年間ずっと忘れた事がなかった。それは由紀が武史以外の男達と付き合っている最中にも時折蘇って由紀を苦しめたのである。 「私、あなたに会わなければ良かったわ。」由紀は、もう冷えて残り少なくなったホットコーヒーを一気に飲み干し、そう呟いた。 「なんでそんな事言うんだい?俺がもう結婚しているからか?」 武史が率直に由紀にそう聞くと由紀は「ええ、そうよ。」と悲しそうに、そして少し怒りを含んだ声で答えた。現に武史の左手の薬指には、結婚指輪が光っており、由紀は改めて2人の今の現実を突きつけられた気がしていたのである。「俺がもう結婚している事は君だって知っていただろう?俺のFacebookを見たんだから。」武史は今更不本意だとばかりに少し声を荒げて言った。「この数時間、凄く楽しかったじゃないか?俺たち実に10年ぶりに会ったんだよ。」 由紀はワザと窓の外に目をやって、雨が小降りになったのを確かめた。 「ねえ、雨が小降りになったわ。」由紀がそう言うと武史は「雨なんてどうでも良いじゃないか。一体君は何が言いたいんだい?」と答えて、イライラしながら煙草を背広のポケットから取り出し、ライターで火を付けた。 「まだ吸っているのね?」 由紀が優しく懐かしそうにそう言いながら、煙草の火を見つめると武史も答えた。 「君は昔もそうやって俺を見つめていたね。」 由紀はその武史の優しい物の言い方が本当に懐かしく、思わず涙ぐんだ。 「そう、既婚者のあなたのFacebook に連絡したのはこの私です。そして後悔してるのも今恋人がいない独身のこの私です。なぜならあなたと10年ぶりに会えてとても楽しかったからです。」由紀はワザと明るくそう言うと、メニュー表を取って熱心にメニューを見るフリをした。 「次はちゃんとしたレストランにしないか?俺が何か奢るよ。」武史は嬉しそうに弾んだ声で言った。 由紀は「残念だけど、それはもう無いのよ。だって見て、もう雨は止んだわ。」とそう答えるとバッグから財布を取り出し、千円札をテーブルに置いた。武史が窓の外を見ると、喫茶店のヒサシから雨の雫は滴り落ちていたが 雨は止んで、日が差し込んできていた。 「止めろよ、コーヒー代ぐらい俺が出すよ。」武史はそう言うと悲しそうに言った。「もう出るか?」 「ええ。」由紀はそう答えて、自分のバッグを持ち、千円札を財布にしまうとサッサと喫茶店の外に出てしまった。 「もう会わないの?」武史が喫茶店の出口で由紀にそう聞くと、由紀は「ええ、その方がいいわ。」と傘の雨粒を振り払いながら、笑って言った。 「残念だな。」武史が名残惜しそうに言うと、由紀も答えた。 「私もよ。晴れてきたわね。見て、虹も出ている!」 その遠くに見える虹は大きく幾重にも色が重なり、思わず見惚れてしまうほどの光を放っていた。 2人は寄り添って立ち、その虹をしばらく黙って見つめていた。
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