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猛烈な雨が急に降ってきた。崇樹は急いで走り出す。辺りを見回していると、公園内に屋根付きの休憩スペースがあった。雨宿りのためそこに留まることにする。
雨に濡れたのはほんの少しの間だったが、勢いが強かったため結構濡れてしまっている。水で濡れた服が肌に引っ付いてくる。
これだから雨は嫌なんだよと崇樹は思う。雨が降るなんて一言も聞いてない。天気予報なんて当てにならないと思っていると、一人の女子生徒が鞄で雨をガードしながらこっちに向かってくる。
同じクラスメイトの女子だった。確か名前は青葉だったと思う。それ以外はよく知らない。ほとんど喋ったことがないためだ。
隣にいる彼女から少し距離を置いて立つ。周囲に人はいない。雨が地面に当たる音だけが響く中、互いに口を噤み時が流れていく。
崇樹は居心地の悪さを感じていた。にわか雨だとは思うが、この沈黙の状態を耐えるのは心理的にきつい。話しかけていいものか迷ったが、結局は口を開いていた。
「雨、相当ひどいよねこれ」
「はい」
彼女は無表情で一言返事を返す。そして会話は途切れた。
え、これで終わり。崇樹としては一言でも会話をした以上これで黙ってしまっては、逆に違和感があるので続けて話題を振ってみる。
「青葉さんも家、こっちの方向なんだね」
「はい」
「青葉さんも濡れちゃって大変だよね」
「はい」
いや、こいつ同じ言葉しか言わないじゃん。ロボットでももっと喋るよ。崇樹は心の中でしっかりとツッコミを入れた。顔は結構可愛いのに、こんなに無愛想じゃ台無しだと感じる。
もしかすると話しかけられるのが嫌なのかもしれない。あるいは嫌われているのかも。崇樹は頭の中で過去の自分の言動や行いを振り返ってみたが、特段心当たりはなかった。
崇樹はこれ以上会話は続かないと思い、喋りかけるのをやめる。すると、彼女が鞄の中を漁り出して
タオルを二枚取り出し、片方のタオルを崇樹に差し出してきた。
「これ、使ってください」
「あ、ありがとう」
突然の行動にびっくりしたが非常に有り難いことだった。無口で無愛想だが心は優しいのかもしれないと崇樹は思う。
「これ明日返すから」
「いいですよ、返さなくて」
「どうして?」
「親から貸すときはあげるつもりで貸しなさいと言われているので」
それはお金の話ではないのかと崇樹は思うが、間違っていると訂正する気はしないのでスルーする。
空から晴れ間が見えると猛烈な雨は次第に弱まり、そして完全に止んだ。太陽の強烈な光が差し込んでくる。
彼女は崇樹の方に体を向けると「それじゃあ、私はこれで」と言って軽く頭を下げてくる。崇樹は「じゃあね」と言いその場から去っていく彼女を見送った。
変な人がいるものだと崇樹は思う。もし、あのまま雨が降り続いていたらどんな話をしただろうか。
彼女のことを気にする自分も相当変わり者かもしれないと崇樹は思った。手には彼女のタオルがあり、話すきっかけはある。明日、また話しかけてみるかと崇樹は考える。
彼女は笑ったらどんな顔をするんだろうか。もっと雨が止まずに降り続けていたら、彼女の笑顔も見れたかもしれない。
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