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告別式の会場に、ピアノのインストゥメタルが響く。学生服の肇は白い花であふれる祭壇と姉の遺影を見上げながらぼんやりと曲を聞いていた。
エリック・プラクトンのTears In Heaven。
プラクトンの4歳の息子は、不慮の事故でマンションの53階から転落し天国に昇っていってしまった。
美しく連なる装飾和音はまさしく涙の落ちる音だと肇は思った。
育児休暇が終わってすぐ、今までのキャリアを取り返すべくヨーロッパに出張に行った姉の由香里は、現地で事故に巻き込まれて死んでしまった。火葬されて骨だけになって帰ってきた為、祭壇に棺は無くポツンと白い骨壷の包みだけが置かれている。
弔問客が帰った後の会場で、義理の兄の優二が一歳になったばかりの娘を抱きしめて、いつまでも背中を丸めていた。
「なあ、もう俺帰るわ」
肇は制服の詰襟を開けた。
窮屈で仕方なかった。悲しみは感じていたが、両親が亡くなってからずっと親代わりだった姉がいなくなった今、これからどこで寝起きすればいいのか、どう日々の糧を得ればよいのか、高校はやめるべきか、優二とはもう繋がりがなくなってしまうのか等の問題が押し寄せ、息が詰まりそうだった。
ただただ打ちのめされていた優二は幽霊のような顔を上げて、肇を虚に見上げている。
「てか、もう帰れって言われてんだけど」
優二はふらりと立ち上がると頷いた。
姪っ子の果穂はすやすやと何も知らない顔で眠っている。
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