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「――今日のお前、どうしようもねえな」
突如鼓膜を揺らした低い声にトリップしていた頭が覚醒する。
弾かれたように顔を向けた先には、やれやれ顔で煙草を咥えるシゲさんが居た。
「いつもの営業スマイルはどこいったよ」
「…いつも通りしてるつもりですけど」
コップを拭く手の動きを再開させながらそう言った俺にシゲさんは「ばーか」と悪態を吐く。
「“つもり”がついた時点で出来てないっての」
「…、」
この人はほんと、痛いところばかりを突いてくる。
「なぁに、ついに女でもできたか?」
ニヤリとした笑みを向けてくるシゲさんから目を離し「まさか」と笑う。
「そんなわけないでしょ」
「ふーん?じゃあなんで時計ばっか見てたんだよ?」
「…そんな見てました?」
「まぁ、5分に1回くらいは」
「…」
無言でコップを拭く。キュッキュッと響く音でさえ耳障りに聞こえる。
機械的な動作を繰り返していると、いきなり布巾を乱雑に掻っ攫われた。
「もういい、上がれ」
ゆっくり休めよ、そう続けながらくしゃりと俺の頭を撫でたシゲさんに素直に「はい」と頷いた。
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