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「織田信長を倒したい」
勝頼は単刀直入に切り込んだ。謙信相手の交渉は変に回りくどくするより、直接的に突っ込んだ方が効果があると判断したのだ。
「その為に上杉謙信殿のお力をお借りしたい」
笑みを携えた表情を崩さず謙信が勝頼を見つめてくる。
謙信は今、織田とのいくさの真っ最中である。能登の七尾城を巡って上杉、織田はぶつかる運びとなった。七尾城は畠山家の城である。七尾城は今、親上杉派、親織田派の二つに分かれ、混乱している。上杉と織田。どちらが先に七尾城にたどり着き、支配するか。これはそういういくさである。
「わしと盟を結び、織田を滅ぼした後はどうしたいのだ、勝頼」
沈黙を破り、謙信が口を開いた。
「上杉謙信の首級をこの手で挙げたいです」
勝頼は言った。謙信の傍らに控える景勝があるかなきかの反応を示した。勝頼は謙信の眼を見据え、腹に力を込めて続けた。
「上杉とのいくさで多くの武田の者たちが死にました。織田信長を倒した後、俺が成すべき事は死んでいった家人の無念を晴らすことです」
謙信が腰を浮かし、勝頼に寄ってきた。互いの額がつきそうなくらい、謙信が肉薄してくる。謙信の眼差しが鋭いものに変わっていた。まさに龍の眼だ。それでも勝頼は眼を逸らさなかった。
「わしを使い捨てようというのか」
「はい」
勝頼は毅然と言った。
「俺は上杉謙信を利用する。貴殿も俺を使えるだけ使えばよい。織田信長を倒した後は存分に命を削り合いましょうぞ。我が父、信玄と貴殿がそうしていたように」
「虎の子は虎よのう」
優しげな表情に戻った謙信が眼を細めて呟いた。
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