《99》

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 松永久秀が謀叛を起こす直前、秀吉の命は風前の灯だった。秀吉は柴田勝家と意見が衝突し、加賀の戦陣を放棄したのだ。この行動に激怒した信長は、秀吉に切腹を命じた。松永久秀が謀叛の軍を信貴山城に集結させたのは秀吉が切腹する当日の朝だった。謀叛のおかげで秀吉は命拾いしたのだ。 「まだ、わしの切腹は解かれてねえかな、半兵衛」 秀吉は馬鞍にぶら下がる7つの首級を見ながら言った。 「此度のいくさ、第一の功は間違いなく秀吉殿です。これだけ首級を挙げた者を処断する道理はどこにもありません」 「そうか。あの信長様だぜ。そんなに甘いか」 「信長様は合理的に物事を考えるお方です。有用な者はとことん遣いきろうと思われるでしょう」  片岡城の松永軍は死ぬ為に打って出てきたのか、戦い方がひどく雑だった。 聞けば、松永軍は上杉謙信をかなり頼りにしていたらしい。手取川で織田軍を打ち破った上杉謙信率いる越軍はなぜか進軍を止め、越後に引き返してしまった。上杉謙信は間もなく北陸にやってくる豪雪を恐れたのではないか、と秀吉は考えている。一番の頼みの綱を失った松永久秀は信長に和睦を申し込んできた。が、信長は久秀の使者を斬り殺している。2度の裏切りを敢行した松永久秀を徹底的に叩き潰す構えなのだ。 「大将首じゃ」 嬉々とした声音で言いながら、清正が秀吉の方に駆けてきた。替えたばかりの馬が弾むような足取りで駆けている。 「親父殿、敵の大将を討ち取りましたぞ」  
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