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久秀の首、頭の部分が焼けて、骨が露になった。大きく笑った口許にだけ皮膚が残っている。
「平蜘蛛と共に、木っ端微塵になるなんて」
秀吉が呟くと、信長が、いや、と言葉を被せてきた。
「平蜘蛛は破壊しておるまい」
言った信長の眼は燃える久秀の首を見続けている。
「自らの五体が弾け飛んでも平蜘蛛だけは護る。松永久秀とはそういう男よ。おそらくどこかに隠している」
轟音が響いた。信貴山城から炎が立ち上った。城内に篭る久秀の息子、久通が城に火を着けたのだろう。
信長が命じて、椅子を運ばせた。信長は麓に持ち込まれた椅子に浅く腰掛け、足を組んで頬杖をついた。
地に転がる久秀の首はすっかり燃え尽き、頭蓋骨だけになった。歯だけになった口許で燠火が光っている。
織田軍4万、全兵が信長の後ろに並び、信貴山城を見上げた。空が暗くなるのに合わせるように、信貴山城を嘗める炎はその火勢を弱めていった。
やがて、完全に火が消えた。辺りの闇が濃くなる。山のあちらこちらで細い煙が上がっていた。
秀吉の眼が闇に慣れ始めた頃、信長は足下の髑髏(シャレコウベ)を拾い、抱くように両手で胸に抱えた。
「さらば」という囁き声が秀吉の耳に聞こえた。
闇の中で信長の頬が光っていた。
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