炭酸と弾ける

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そうだ、寺に行こう。邪念を打ち消す為に寺だ。 半ばマジな眼をしてそんな事を考えていた宇汰であったが、浩一郎からのメールにそれもかなわず。 『でさぁ、そのお局ババァ!あたしに何て言ったと思う!?』 「想像つかないですね…」 『男漁りに来てるんなら、この会社には必要無いんだけどねぇとか言うのよっ!新卒イビリばっかりしてるから、アンタは独身なんだろうがつー話よっ!そう思わない!?』 「それは酷いですね…」 結局元気にバイトへと勤しんでいる。 今日はストレスMAXのOLさんの愚痴に付き合っている。新卒でミキと名乗った女性。 多少アルコールも入っているのか、ストレスも天井なら、テンションも打ち上げている。 『はぁー思いっきり愚痴ったら少しスッキリしたぁー!えーっと、ウタ君だっけ?ありがとうぉぉぉ』 「いえいえ、スッキリしたんなら良かったです。ミキさん、大丈夫ですか?」 『だっいじょぉーぶっ!て、言うか、ウタ君いいねっ!すっごい落ち着く声してるぅー、本当有り難うねぇ』 「有り難う御座います、気を付けて」 30分掛けてようやく落ち着いてくれたのか、 ミキは、はぁーいと機嫌良く電話を終えてくれた。 落ち着く声だと言ってくれたのは嬉しいが明日覚えてくれているのだろうか。二日酔いとかにならなきゃいいけど。 そんな事を考えながら笑ってしまう宇汰はスマホの電源を落とす。仕事以外はこうやって電源を落とすのを原則とされている為。 「あちち…」 一仕事終え、煎れたばかりのコーヒーを飲めば、こちらもようやっと落ち着いたと溜め息が自然と出てくる。 (うーん…) うん、全然ドキドキなんてしねぇや。 いくら酔っていたとは言え、相手は女性。 しかも、時折甘える様に宇汰の名を呼んでくれたりもしたのだが、それに反応する事など一度も無かった。 『今日も疲れたよ、ウタ君』 『今日も頑張ってって、言ってよ』 「…………」 ぐぅぅ…っ いい。 やっぱりハルさんの声はいい。 同じ大人の男性でも浩一郎や父とは違う。 するりと入ってくるのに、ずっと耳の中に留まり、少しずつ弾けていく様な。 ぱちぱちぱち (よっぽど俺の耳との相性がいいんだな…) 今まで生きていて齢20年ほどではあるが、こんな事初めてだと思うとこの出会いはかなり貴重、レアだ。 このバイトをしていなかったら気付く事の無かった感情ではあるが、気づいてしまったのだからどうしようもない。 どうせいつかは終わりの来る関係性。 スタッフと客。 それまでは彼の声を堪能してもいいのではないだろうか。 勿論、今日気付いたばかりの声フェチの変態性は抑えてみせる。 うん。 (要はハルさんにバレなきゃいいんだ) 開き直った変態に怖い者は無い、らしい。
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