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(すげー綺麗な色…)
ぼんやりとしたオレンジ色に染まる視界の中、夢の中で殴られた右頬を擦る。
そういや、サウスポーの女だった。
あの渾身の振り、普通の女として生きていくには勿体無いと当時も思ったが今でも思える。
(あれって…あーそうだ…初めて白居に合コン連れて行って貰った時に知り合った女…)
中々清楚系の可愛らしい容姿で、何故か開始早々に宇汰の隣をキープし、白居からやっかまれたりもしたが、結局夢の通り。
なんて、夢見の悪い。
肌に当たるシーツの心地良さは最高なのに、なんであんな夢見たんだと寝返りを打ちながら宇汰はぎゅっと眉間に皺を寄せた。
もう少し寝ようかな、なんて…
―――――――ん?
(心地良い?)
サラリとしたこの手触り。
自分のベッドシーツはこんなにきめ細かい感触は無かった。むしろ、何が着いているんだかザラザラしていた気がする。
いや、そもそもオレンジ色の照明とか、何?
重かった瞼が瞬時に風を起こす勢いで開く。
まず、ベッドが広い。
白いシーツの水平線が手を伸ばしてもまだ向こう側にある。そしてその先には窓があるのだろう濃紺のカーテンが見える。
(え?え、え?)
此処は何処だ。
再び仰向けに寝返れば、真っ先に眼に入ったオレンジ色の照明。そして、天井は自室の染みがやたらと怖い木材の物ではない。コンクリート天井だ。
「えぇぇ…」
眼を擦っても、矢張りコンクリート天井。
ゆっくりと起き上がり、周りを見渡す。
グレイの壁にスチールラックにシェル。ディスプレイラックが設置してあり、分かった事はただ一つ。
(俺の家じゃない…)
当たり前体操過ぎるこの状態に、しばし眼を瞬かせていた宇汰だったが、取り合えずこの状況を知りたい。まず部屋を出ようとベッドを降りてみたのだが、
(――――――っ、は?)
膝から力が入らず、その場に無様にもべしゃりと崩れ落ちてしまった。
これまた肌触りのいいラグに助けられ、痛みは無いものの、
「……あ、れ?え?」
自分の身体を見渡す宇汰の心臓がドクドクと煩い。
しかし、それも仕方ないのだろう。
「な、んで、俺…裸…?」
半裸じゃない、全裸。生まれたままの姿。
何で、どうして、何故、どのような事で?
知らぬ部屋で全裸の自分。
何をしでかしてこうなってしまったのか、全く分からないのが恐怖でしかない。
「ふ、服、俺の、」
安い古びたシャツが今はこんなに恋しい事は無いと探そうとするも、矢張り力が入り辛い。
この部屋に全裸も問題だが、この身体も一体何だ。
まるで自分の身体では無い様に動き辛い。膝を立てて立ち上がるが、気を抜くと顔面から床に突っ込んで行きそうだ。
(え?いや、えぇ?)
ここ数分で2年分位の疑問形の『え』を使った気がするなんて、思ってる場合じゃない。股間が色んな意味で心許ない為、ベッドのシーツを引っ張り降ろし、腰に巻き付けようと、ようやっと立ち上がった。
が、
「………え」
今の、何だ?
気のせいだろうか。
恐る恐る視線を下へ向け、巻き付けたシーツの隙間から下半身を確認する。
その間、益々煩く音を立てる心臓。
そして、見えたのは。
自分の太腿の合間から流れていく、白い液体。
「………え、っと、」
何、コレ。
肩が跳ね、ぐらっと揺れる身体を自然と支えるべく下半身に力を入れた。
瞬間、
ドロリ
先程感じた感触。
呆けた侭、また視線を下半身へ。
先程より量が増えた『液体』が流れていく。
それは、見覚えのある、触った事もある物。
そう、男ならば、一度は見たし触った、と言うより、周知の仲とでも言う物か。
独特の匂いが鼻を突く。
「あー…はいはい、これって…あれ、じゃん…」
中学、高校時代は毎日の様に見ていたそれに妙に納得し、一人頷くが問題は、
「…これ、どっから…出てきてんの…?」
ひくりと口元が引き攣る。
別に調べたくは無いが、どうやら自分の物からではないらしい。大人しく頭を垂れているそれには今その元気は無いと見える。
(可愛らしい状態…)
まぁ、もとより暴れん坊では無いのは自分が一番知っている。
ではーーー、
「あれ、起きた?」
「あ…?」
宇汰の状況とは真反対な、不釣り合いな穏やかな声が部屋に響く。
混乱を極め、生理的な涙を浮かべた眼のボヤけた視界に映るその人。
「ハル…さん」
「うん」
安堵からか、ヘタリと座り込んだ宇多にハルが近づき、しゃがみ込むと顔を覗き込んだ。
「どうしたの?まだ朝の5時だよ。眠い?」
「いや、そうじゃ、無くて、あの、俺…!」
聞きたい事があり過ぎて上手く言葉が出て来ない。
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