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今更、今更だが。
どんな長い脚でもゆったりと伸ばせる位に広い浴槽で湯に浸る宇汰はぼーっと呆けた様にその水面を見詰める。
ゆらりゆらり、と。
「ウタ君、熱くない?」
「…大丈夫です」
そんな宇汰の背後からピッタリと胸を合わせて来る長い脚の持ち主ハルは時折首筋に唇を当てているらしく、それにくすぐったいと肩を竦めながら、今自分の身に感じる痛みを理解していた。
そう、今更だが、
(尻…いてぇ…)
先程よりは少し冷静になったのだろう。
その痛さでようやく現実が見えて来た事に、自分の鈍さ具合が良く分かる。
(つまり…これは、あれだよな…)
全裸といい、下半身の違和感とそして何より、あの『液体』。
全く現状を理解出来ていない中での怒涛の展開になされるがままだった宇汰だったが、自分の身に何が起こったか、これで気付かない方がおかしい。
あれは精液だった。
それが尻穴から…。
(俺…、ハルさんと…やってるよ…な…)
しかも、
(俺が…突っ込まれたって、事か…)
昨日ハルの車に乗った事は覚えている。
けれど、そこから記憶が全く無い。
一体何があって、どうなってこんな事になってしまったのだろう。
そこが分からない故にどんな態度をとっていいのかも分からない。
チラッと背後を見やれば、宇汰の肩に唇を寄せているハルが見える。何を食べたらそんなに育つのか、伏せた長い睫毛にぐぅっと喉が鳴った。
(…マジで綺麗な顔過ぎる…)
本当にこの人と?
こんなイケメンなだけでなく人を魅了するフェロモンを垂れ流している男とこんな平凡を極めた自分が?
ぐるぐると回る思考に目が舞いそうになる。
(いや…一度…お伺いを立てた方がいいんじゃないか?)
万が一。
万が一、相手がハルでなかった場合。もしくは宇汰の勘違いだった場合。
物的証拠、状況証拠は揃っていても、人的証拠が無い。
(でも…だからと言って何て聞いたらいいんだ…?)
『俺、ハルさんとセックス…しました?』
ストレートに聞いてみるのが一番なのだろうが、何だか失礼にも感じる。
いや、でもそう言えば、起き抜けに覚えてないと言ってしまった。
堂々巡りの纏まらない思考に頭まで痛み出す。二日酔いもあるのだろうが、一番の原因はキャパオーバーだろう。
水面に映る情けない表情を見せる自分の顔にこっそり溜め息を漏らし、
(もう…いっその事…何事も無かった体で…行くか…)
それが妥当だ。彼から何かを言われるまで、素知らぬ顔して、それまで普通に…
「ウタ君さ、男とのセックス経験って俺だけかなぁ?」
素知らぬ顔即終了。
「え…、えっと、は、い…?」
しかも露骨過ぎる質問。
何と答えていいのか、分からないと言うより一瞬何を言われたのかが理解出来ない宇汰は恐る恐る後ろを振り返った。
笑顔のハルに迎えられ、もう一度聞かれる。
「だから、セックス経験、俺だけ?」
「…女だけです」
しかも一人だけ…と小声で追加情報。
(…いや、つか俺何を馬鹿正直に…)
「そっか」
濡れた前髪を掻き上げ、笑う顔と、その声にぼーっと見惚れてしまう。
ぞわぞわと這い上がるいつぞやの感覚に思わず脇腹を抑えるが、後ろから伸びてきたハルの右手がその手に重なり、そのままぐっと後ろに引っ張られ、密着する宇多の背中とハルの胸元。
「は、ハルさん、ちょ、」
「でも、それだと素質あり過ぎて、ちょっと心配になるレベルなんだよねぇ…」
触れ合う肌の面積が増え、湯の熱さではない、生々しい熱に宇汰の耳まで赤くなるが、
「…そ、しつ?」
言われた言葉に首を傾げる。素質とは?と。
「そう。まぁ、酔っていたって言うのもあるんだろうけど…ウタ君ってさ」
「…はい?って、…ぎゃぁ!」
再び尻を襲う違和感。
ぬるりと湯の力も借り、ハルの長い指が入ってきたのだ。反射的に身体を捻ろうとした宇汰だが、密着した身体は離れない。それどころか、右手だけの力で益々密着していくようだ。
「ここの方が感じるみたいなんだよね」
「は…はぁ!?」
ぐりっと中で指を回転させられ、ズンと突き上げられる。
その衝動に必死で唇を噛むが、それに気付いているのか、いないのか。
「ウタ君のペニスも可愛がってみたんだけど、全然勃たなくて。でもこっち弄ったらすぐに反応したからさ。もしかして経験済みだったのかと思って」
ね?
と微笑みながらぐぅぅっと内部を圧迫させるかの様に指を動すハルはついでにと目の前の頸に吸い付いた。
一方そんないらん情報を教えられた所で何も出来ない宇汰は与えられる感覚にブンブンと首を振る事しか出来ない。
「ハルさ、んっ…、マジでこれ、ヤバイ…!離して、」
「最後にもう一度聞くけど、」
「何っすかっ!!」
「男相手は俺だけ?ここで感じるの初めて?」
「は、初めてですっ…!っんん、ハルさんだけっ」
いや、マジで。
何を言わされているんだ、俺。
(何これ、何プレイ!?)
そんな事を思いながら、増えた指に涙眼でひっと身体を仰け反らせた。
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