理想のオレンジ

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その上、増えた指である一点をガリガリと抑えながら引っ掻かれれば、 「…っ、はっ、は…!?」 一瞬身体の動きは止まったが、その後わなわなと身震いを始める。 ぼろぼろと溢れる涙が風呂の湯に吸い込まれていくが、口は開いたまま断片的な声が漏れて行く。 「特にここは気持ち良いよね」 「や、あ、あ、あ…っ、ま、ま、って…!」 静止の声を掛けるも、ハルは心地良さそうにその声に耳を傾け、刺激を続ける。 「気持ちいいよね?ウタ君」 体内から襲ってくるこの感覚が快感なのかなんて宇汰自身分からない。けれど、ずっと耳元で、あの電話でいつも聞いていた優しい声で問われ続け、 (そう、なのか、?) 変に納得し始めた。 脳の動きは全くと言っていい程機能していない。目の奥も何も見えていないにも関わらず、ただ与えられる刺激に水飛沫を激しくさせながら宇汰はガクガクと頷く。 「うん、っ、分かり、まし、たっ、分かっ、たから、」 「気持ち良い?」 「はい、っ、ハ、ルさん、っ、マジ、で、あ、あ、」 「気持ち良い?」 何度も問われる同じ言葉。 それに何度も頷いているのに、解放されないのは何故か。 太腿に当たった硬い肉感。 ぞくっと腰がわなないた。 (…駄目だっ) そうどこかで言っているのに、 「き、もち、いい、ですっ…」 「何が?」 「ハル、さんの、指、が…、あ、当たる、とこ、気持ち、いい、」 あぁ、声に出して、言ってしまった。 ***** オレンジ色の照明が水分を含んだ視界でまるで絞られた果実が吹き出しているみたいに見える。 「お湯が中に入ってたんだね。溢れてくる」 「あ、あ、あ、あ…っ」 風呂場から半ば無理矢理引っ張られた先は寝室。 抵抗する力も気力も無い宇汰は先程からずっとハルのペニスで体内を遊ばれていた。 改めて至近距離で見てしまったハルの自身に恐怖からか馬鹿になった涙腺が無理だと訴える様に大量の涙を溢れさせたが、そんなもの彼には関係なかったらしい。 笑顔のまま難なく宇汰の脚を広げると、風呂場で解された尻穴に己を挿入させた。痛みも勿論、息が止まる衝撃にまた涙が流れるも、『そこ』は持ち主を裏切って歓迎するかの様に、ハルを飲み込んだ。 そうして、 『気持ち良い?』 『き、もち、…い、い』 『ここは?』 『そ、こ、好き、』 突く場所を変える度、ぎちぃっと奥に挿れる度、緩く抜いては入れて行く、なんて繰り返され、すっかり宇汰は聞かれる事にハルの望んでいるであろう言葉で返す様になってしまった。 いや、素直になった、と言うべきなのか。 答えれば答える程、イかせてくれる。満足そうな浮かべるハルの笑みに、ぎゅうっと胸が満たされる。手を伸ばせば、ふふっと抱きしめてくれるのが堪らない優越感を覚えさせた。 揺れる視界はオレンジ色。 (いやいやいや、) 誰だよ、交換日記だとか、手を繋ぐとこからとか、言ってたヤツ。 下半身に留まらず、胸元まで汚す互いの精液が眼に入ってくる。 理想と現実のギャップがエグい。 いや、本当、今更だけれど。 (何でこんな事になってんだっけ) その後、何考えてるのかなぁ、なんて問われ一時間程焦れに焦らされ、イかせて下さいっ!と叫ぶ事になる宇汰なのだ。 ***** 大学は休む事になってしまった。 身体を動かす度、軋む音がする。実際する訳では無いが、それ程違和感は酷かった。 これが抱き潰されると言う事なのかとソファの上でハルのシャツだけを羽織り、丸くなる宇汰は溜め息を吐いた。 何故に彼シャツ。 『俺のパンツ…は?』 『洗ってるよ、待ってて』 『…はい、あの、…じゃ、せめてズボ…』 『ん?』 ズボン貸して下さいと言えなかったのは、フルったチンの状態で借り物のズボン等履けないと思ったからか、ハルの圧に負けたからなのか。 恐らく両者。 やたらと目立つ太腿の鬱血も隠れないそれに心許無さを感じつつも、煎れてもらったコーヒーを啜った。 「ウタ君、落ち着いたら買い物行こうか」 「わっ!えっ、か、買い物ですか…?」 ソファの後ろから背もたれ越しに手を伸ばして宇汰の首に腕を絡めてくるハル。いきなりの言動にコーヒーが溢れるのを防ぎつつ、戸惑いの眼差しを向ける宇汰だが、それを軽く遇らうかの様にいつもの笑を見せる。 「鞄買いに行こうよ」 「…はぁ、」 「俺のじゃ無いよ。ウタ君のだよ。壊れてるじゃんか」 あ、あれを見られてしまってたんだ。 麻袋の様になってしまった、あれ。 恥ずかしいと思ってしまうものの、今の自分以上に恥ずかしいなんて事あるのかなんて、ある意味悟りを開いている宇多は首を振った。 「だ、大丈夫ですっ、あの、バイト代も…入るし…」 「俺が買いたいから、ね」 そう言って笑うハルはちゅちゅっとシャツの隙間から見える肌に唇を落として行く。余程キスが好きらしい。 最高傑作パーツ集合体の端正な顔が近い。 ドキドキと胸が鳴るも、 (でも、でも) だったら…ズボン貸して下さい… そう思わずにはいられないとなされるがままの宇汰はまた溜め息を吐いた。
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