見て見ぬ振りする林檎

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翡翠、ペリドット、それらの石を埋め込んだ様な双眸。 その眼に責められている訳では無いと分かってはいるのだが、次々と湧いてくる複雑な感情がマーブル状に渦巻き、目元に熱を灯すと、じわりと視界が滲みだした。 「俺…、昨日、電話、のあと、」 「うん」 「ひ、ひとりでしたんです、け、ど」 「…あぁ、一人で、ね」 良かった、何をと聞かれていたら羞恥でもう死亡案件物だったかもしれない。 「でも、ぜんっ、ぜん、イケなくて…っ」 「うん」 ハルの眼が柔らかく解けたみたいに揺らぐ。 「怖い、やら、男として、情けない、やらで…うぅ…」 顎を掴んでいた指がゆうるりと首筋に流れていき、そのまま首の後ろまで。それと同時に頬や目元、に口付けが落とされる。 (あったかい…) 羞恥心もさることながら、慰めるみたいな、労わるみたいな動きにとうとう涙が溢れて来た宇汰はされるがままにそれを受け入れたが、 「ウタ君、ここってあんまり防音なんて効かないよね」 「…………は?」 「壁、薄いよね、って話」 「………まぁ、あまり宜しくは無いかと…」 本当にこの男の話に脈絡は無い。 ずずずっと鼻を啜り、怪訝な顔で見上げた先で宇汰を見る優しい薄緑色した眼には何ら曇りも無い。 「じゃあ、」 どろりと濃い色になった、だけ。 『あまり声出したら、聞こえるだろうな』 ――ぐちぃ、ぐちゅぅ もう聞くことは無いと思っていた音が室内に響き渡る中、必死に口元を抑えながら、身体を震わせる宇汰はハルの言葉を噛み締めていた。 (馬鹿…っ、俺のバカぁああ…!) 本当にチョロい男だ。ハルの言う通りに何でも言ってしまう。 (何でこんな事になるかなぁ…!!) 自身の安直な言動に罵りの言葉も忘れずに。 だが、勿論そんな事言ってる場合じゃない。 背後から伸びた左手に握られた自分の息子。 亀頭部分から漏れてくるカウパー液を長い指が掬っては馴染ませる様に何度も根本から撫でつけていき、再びどぷりと溢れる様は視覚的に見ても卑猥以外の何者でもなく、ぞくぞくと快感がせり上がる。 ただ矢張り射精までには至らない。 「ウタ君、俺がこの間言ってたの聞いてた?」 「ん、っ、あ、ぁぁ」 左手の犯人であるハルがわざと囁き、耳にまで刺激を与えてくる。 バックハグの体勢だけでも恥ずかしいのに、脚まで大きく開かされ、閉じようとするならば仕置きとばかりに力を込めて握られる為それもままならない。 (190センチのガタイ…恐るべき…っ) 「ウタ君」 「やぁ、ああ…っ」 敏感になったつるつるとした先を何度も擦られ、目の前が霞む。 もう先程から喘ぎ声と涙しか出ていない。そんな宇汰に仕方ないなぁ、なんて呆れた声を出しながらも、 「答え合わせしよう」 と唇が弧を描いた。 同時に宇汰の腹を抑えていた右手がそろりと下へと降り、しとどに濡れた『そこ』に辿り着く。 「あ…」 そうだった、 と気付いた所で今更だと言う事も瞬時に理解した。 ぶるりと震える腰と脇腹。 「思い出した?俺、言ったよねぇ」 指の先で撫でながらも圧を加えて行けば、閉じていた筈のそこが変化していく様が分かったのか、聞こえて来たハルの声は満ち足りたもの。 「指、入れていいかな」 「っ、は、ああぁ」 答えあわせと言い、問いかけまでしておきながら宇汰の返事は必要なかったらしい。 ゆっくりと、だが明らかに意思を持った指が体内に入ってくる。せり上がってくる違和感に眉を寄せて身体を捩じってみるも、ただ背後に居るハルの首筋に甘える様に鼻を寄せるだけしか出来ない。 その仕草に気を良くしたのか定かでは無いが、ハルの少し上擦った声ではは、っと笑う声が頭上から聞こえた。 自分に興奮してくれたのだろうか。 未だ口元を抑える事に必死の宇汰だが、それもまた自身への興奮材料になったらしく体内にある指を締め付けてしまい、生々しさに涙が零れる。 こんなにもハルから身体を変えられてしまったなんて思っても居なかった。たった一度の行為で全て塗り替えられている。 そして、 「気持ち良い?」 しこりに当たった指と、この言葉。 前も何度も何度も問われ、『答え』はこうだ、と教え込まれた。 「ぅ…ぁ、うん…う、んん、気持ちいい、」 「ウタ君、一人でするにしても、こっち弄らないと駄目になったんだよ。気持ちいいのは、こっち」 「は、い、ああ、気持ちいい、から、」 勘弁して欲しい、とは言えなかった。 増やされた指に腰に当たる熱い熱。 再びしこりを引っ掻かれ、馬鹿になった撥ねる頭で思う事は一つだ。 (二の舞じゃねーかよ…) 笑うしかない。
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