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そんな事を考えていれば、高まる緊張感。
生温くなったウーロン茶でやたらと乾いた喉を潤すと、その様子をじぃっと見ていた白居がぼそりと呟いた。
「……そういや、お前さぁ、好きな子居るんじゃね?」
「……………は?」
たっぷり間を開けて、何を言ってるんだといわんばかりの眼でまじまじと自分を見詰める宇汰に白居は唇を尖らせる。
「いや、絶対そうだろぉー、雰囲気全然違うしさぁー」
「雰囲気って何…」
「俺位になるとぉ、恋しちゃってる奴の細かい雰囲気とか分かる様になっちゃうんだよ、すごくね?あ、すいませーん、ビールおかわりくださぁぁいっ」
店員に向かって、手を振る白居は明らかな酔っ払いだ。
けれど、そんな友人に宇汰はごくりと嚥下する。
(え…白居にバレる訳…?)
この場合、宇汰が露骨にそんな雰囲気を醸し出しているのか、もしくは白居が意外と感性が鋭い人間なのか。
あなどれない、と思いながらも、
(そっか…)
と、妙に照れてしまう宇汰はこそっと肩を竦めた。
矢張り、自分は、
(恋、してるのか…)
あの綺麗な男に。
自分で思う分にはそれなりの葛藤があったが、矢張り人に言われて『恋』と発言するのは何とも恥ずかしい気分になるのだと、改めて思った宇汰だった。
*****
酔いつぶれた白居を担ぎ、何とかホテルまで戻り、これまた何とか鍵を白居のズボンのポケットから取り出し、開錠。一人部屋で良かった…と独り言ちながらベッドに放る。
いくら小柄だとは言え、男。ぐったりと力が抜けた白居は流石に重い。
呑気な顔でがぁーっと口を開けて眠る男に若干の苛立ちはあるものの、部屋の空調を整え、腹のところだけにブランケットを被せる。
室内にある時計は既に23時。
「白居、俺も部屋戻るからな」
「ん~~…」
一応お伺いも立てて、溜め息混じりに宇汰はようやっと自室へと戻った。
(ハルさん、帰ってるかな…)
カードキーを差し込み、中を覗き見れば真っ暗な室内。ハルはまだ戻っていないのだと、安堵とも落胆とも取れる息を吐く宇汰はベッド脇に置いていた自分の鞄から例の紙袋を取り出す。
かさっと中から乾いた音。
(…マジでドキドキしてきた…心臓がべろんって出てきそう…)
迷惑な顔をされたり、嫌な顔でもされたらきっと立ち直れないだろう。
せめて普通に受け取ってくれるだけでいいのだ。
普通に…。
「……………ふ、風呂、行こうかな」
ハルが戻るまでにシャワーでも浴びて気分転換を図ろう。白居のお陰でシャツも汗でびっしょりだ、なんて誰に聞かせる訳でも無い言い訳を口籠り、風呂場へ向かった。
*****
―――――………
……あ?
(声が、する…)
それと同時に頭を撫でられる感触が心地良い。
再び意識が遠のくのを感じ、宇汰はそれに抗う事無く、触覚も聴覚もシャットアウト体勢に入ったのだが、
「…っ、ん」
ちゅっちゅっと何度も唇に当たる、その柔らかさにうっすらと眼を開けた。
「あ、ごめん、起こしちゃった?」
「………あ、ハルさん」
目が覚めて寝ぼけ眼に、この顔があっても驚かなくなったのはつい最近だ。驚きよりも嬉しさが勝利しただけの話ではあるのだが、宇汰からしたらそれも成長の一つ。それほど近く入れたと言う証でもある。
「シャワー浴びたの?」
「は、い…」
シャワーを浴びて出て、まだ戻っていないハルを待つ間に、どうやら寝オチしてまったようだ。
少しだけ身体がばきっと音を立てる。
「予想外に遅くなって、ごめん。日跨いじゃた」
「だ、大丈夫です…俺こそ待ってようと思ってたのに、寝てしまって…」
ようやっとはっきりしてきた意識に促され、起き上がった宇汰だが、その肩はハルの手によって押されベッドに戻された。
(あ、やべ…この流れ、)
アルコールも入っているせいか、薄緑色の眼が濃い色に見える。それは欲情が混ざり、興奮しているらしいのだが、こうなった時のハルは息を吸う様に当たり前の如くセックスに流れ込むのがオチだ。
早速シャツの下から手が入り込み、宇汰胸元を擽る。
けれど、今日は少し待って欲しい。
「あ、あのっ、ハルさんっ、ちょっと待って下さい
「何?どうした?」
どうした、とか聞きながら宇汰の両足の間に入れた膝で刺激をしてくるのを辞めろと言っているのだが。
かぁっと顔を赤くし、半ば強引に宇汰はハルの身体を押すとベッドからするりと降りると自分のバッグの元へと。
「…ウタ君?」
旅行は明日、正確に言うのなら日を跨いでしまった為今日までしかない。それなのに、まさか拒まれるとは思っていなかったハルが眉を潜める。
だが、すぐに自分の元へと戻って来た宇汰はベッドに腰掛けると、照れ臭そうに髪をガシガシと掻きながら、口を開いた。
「ハルさんには、お世話になってるなって思いまして…」
「はは、お世話って、大袈裟でしょ」
笑うハルがそっと肩に手を伸ばし、自分の元へと宇汰を引っ張るが、
「いえっ!俺はお世話になってるし、お礼がしたいって思ってるんですっ」
「…お礼?」
その言葉に首を傾げ、意味が分からないと言った風に少し戸惑った雰囲気を見せる。
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