70人が本棚に入れています
本棚に追加
はじめに。
私はさまざまな民泊を利用します。
もちろん、人間の暗部に踏み込む取材をしに出掛けるためです。
旅館もそうでしょうが、やはり特に民泊は怖いと思いませんか。
民泊側のことです。
どんな客が泊まりに来るかわからないのに、だれのことでも泊めなければならない。
基本的にはそうですよね。
昔、お宿の方からこんな話を聞いたことがあります。
やけに金離れのいいお客さんが泊まったことがあったそうです。
何かにつけ、チップのようなものをくれる。
食事のときなら、食べ終わった食器の下にチップ、お風呂のときなら、脱衣所にチップ。
なぜだと思いますか?
指紋を残すな。
このカネをやるから黙っておけ。
そういうことだったそうです。
今度、別のお宿の方はこんな話を聞かせてくれました。
そのお宿はさっきのお宿からは遠く離れた土地にあります。
やけに金離れのいいお客さんが泊まったことがあった、そういう話です。
私はあれと思いました。
でも、知らぬそぶりで話を聞きます。
まったく同じ話なんですね。
指紋を残したくない客が、私の少し先を旅している。
そう思うとわくわくしました。
いつかどこかで鉢合わせになるかも知れない。
***********
さて。
私の出自は明かしませんが、実は一度だけ大きな買い物をしたことがあります。
『家』です。
といっても、田舎の空き家は安いのです。
無料なんてこともあります。
固定資産税など、面倒な支払いはありますが。
私が買った家は、もともと宿でした。
といっても、いわくつきの宿です。
ふだんから私の文章を読んでくださり、お付き合い頂いている方はご存じの通り、私は刺激中毒、危険中毒です。
危ない家となれば、住んでみたいと思うでしょう。
そのいわくつきの宿を買い、
さりげなく民泊を営んでみたのです。
いわくつきの宿なんて、誰も泊まらない。
そう思いますね。
ですが、想像してみてください。
その村に迷い込んでしまい、もしくは故意に逃げ込み、
泊まる場所がほかになかったら?
ものすごく安い宿があったら、やむを得ず泊まりませんか?
私は儲けたいのではなく、やむを得ず宿を利用する人間に会ってみたかったのです。
最初のコメントを投稿しよう!