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【人間ではないお客様】
草木も眠る丑三つ時・・・
山間のその村では、夜中に起きているものはどこかへ連れていかれるとされていました。
夜中に起きているような人間は人間ではない可能性が高い。
動物が化ける物の怪が、村を乗っ取ろうとしているのではないか、と。
山の生活では、人間はとても厳しく管理されています。
山の住民同士で、厳しく管理し、監視しあうのです。
なぜか。
危ない人間がいないかどうかをチェックするためです。
危ない人間が入り込めば、村が全滅することがある。
実際にそのような事件は起こっています。
殺人、放火、そして謎の疫病による全滅。
住人同士が、変な人間、よそ者を連れてこないかを厳しくチェックしています。
村で生活している人間のなかに気がふれたものがいないかどうか。
いたとしたら、座敷牢に閉じ込めているかどうか。
夜中に起きているような『奇人』はいないか。
そして、外部から紛れ込んでこないかを、慎重にチェックしています。
だから、旅館などを営んでいる家は、非常に軽蔑されました。
金儲けのために、得体の知れない人間を泊まらせるなんて、というわけです。
宿の主とその家族は怪死したといいます。
他殺です。
ですが、人間以外の何者かに、ということです。
なぜなら、内臓のある一部が持ち去られているからだというのです。
動物が持ち去って食べたのだろう。
そういわれていました。
主人と家族がのちに死ぬことになった晩、
最期の目撃者がいました。
名乗り出たのはある女性でした。
旅館のすぐ目の前に建っている家の女性です。
その女性の証言は以下の通りでした。
『あれは夜中の三時頃だったと思います。窓の外にはぽっとした明かりがありました。それで、その明かりがあの旅館に入っていったんです』
この明かりとは行灯ではないか、とされています。
山道などを歩くときに、昔に使われていたライト代わりのものです。
人間が使う道具です。
まさか、動物は行灯を使えません。
その行灯らしき明かりを持った何者かが、宿に入ったというのです。
女性はその客が、『女性に見えた』と言います。
ですが、旅館には指紋もなく、客が泊まった形跡は一切残っていなかったというのです。
誰だったのでしょう。
女性はこちらに来たばかりのお嫁さんでした。
真夜中には人間ではないものが蠢いている。
そんな時間に起きているこの女性も、人間ではない可能性がある。
村にとって邪魔な人間、獣ではないか…?
村の人間たちは急遽集まって話し合いをしました。
女性は間もなく遺体となって発見されました。
主人とその家族が殺された旅館のなかの一室で見つかりました。
女性の死体には肝臓がありませんでした。
旅館の一家と同じ殺され方です。
村の住人たちは自分たちの子どもに言い聞かせます。
『人間ではない何者かがいるから、夜中に起きているんじゃないよ』
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昔の文献によると、
中国人は人肉を食べていたといいます。
死刑囚が出れば、その死体を待っていたというのです。
死体の『肝』を食べると肺病が治るとされていたと言います。
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