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アイーダにとっては生き地獄のような朝食が終わり、大皿と生成りの布が厨房へ返される。
三十分後には今夜の宴で披露する舞踏の全体練習が始まった。
この食堂はダンススタジオ程の広さがあり、来賓客たちの泊まる部屋とは反対側にある為、音を気にせずに済む。練習には打ってつけの場だった。
楽器の嚠喨な調べに乗り、踊り子たちが一斉に舞う。
今宵の宴で用いる絹のベールを宙に舞わせ、幻想的な雰囲気を醸し出す。
宙を舞うベールの群れの中から、虹色に輝くベールを頭上にかざしたアイーダが現れる。
ベールを羽衣のように操るアイーダはさながら天女だ。
その美しさに仲間たちも動きを止め見惚れてしまう。
「はぁ~、ほんっと普段もこうだといいのにねぇ~」
「そうそう!こんなにキレイなのに宝の持ち腐れだわ!!アイーダなら一度に十人は食えるわよ!!」
(それは全然うれしくない)
そんな仲間の言葉に聞こえないフリをしながらベールに魂を吹き込んだ。
ジャンッと音楽が終わりを告げ、わぁっと仲間内から拍手と歓声が上がる。
「素敵だよアイーダ!」
声の方を見ると、いつの間にか籠を脇に抱えたルトが拍手を送っていた。
「ルト!やだっ、いつのまに」
「みんなに無花果をと思って、はい」
そう言いルトはアイーダに無花果が山盛りに入った籠を手渡した。
「ありがとう」
ひゅーぅと楽師のひとりが指笛を鳴らせば踊り子たちもふたりをはやし立てる。
「さっすがはアイーダのダンナねェ~!!おアツイわねェ~!!
「ジャスミンッ!!みんなもっ!!」
怒涛の冷やかしに抗議するアイーダを受け流して、ルトの差し入れを手に全員休憩へと傾れこんだ。
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