第一章・輪廻の種子、麗しの舞姫

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「そんな、いつもありがたいと思っているわ!仲間以外に親しい人がいるのは心強いもの」 「まぁ、アイーダのそういうところが良い所だって思うけどさ。本当なら君はひとりで歩かない方がいいんだけど、そうも言ってられないよね」  苦笑いして答えるしかない。  ルトの言うとおり、踊り子仲間と一緒に部屋まで来ればいいのだが、舞台後部屋に直接戻る者は自分以外誰ひとりいなかった。 「交渉にはまだまだ時間が掛りそうだし、仕事の件は気にしないで友達を頼ってよ」  そう言いながらルトは親指で自分の胸をトントンと軽く叩き指示した。 「そんなに難航しているの?」 「うん・・・。ヘサーム王がなかなか首縦に振ってくんなくってさぁ、兄さんもナーゼルも困ってるよ。今シェラカンドが取引してる所よりも安くするって言ってるんだけど」  短髪の明るい髪を掻きながら困った声で言う。  ルトの家は代々商人で大きな金山を所有しているそうだ。  共に商いをしている兄とその友人ナーゼルの三人で、金塊の取引交渉にシェラカンドを訪れたが、逗留して一ヶ月未だ契約に漕ぎ着けていない。 「ヘサーム王って何を考えているか分からないし、怖いわ」 「君のこともすごい目で睨んでいるしね!全く何が気に入らないんだか、だったら見なければいいんだよ。あっ、僕はアイーダの踊り大好きだよ!綺麗だし宵の翠玉と言われるだけあるよ」  慌てて取り繕うルトに思わず小さく笑い出す。  世辞だとしても、今はこのふつうの感想が踊り手としては何よりうれしい。 「わっ、笑わないでよ!僕はほんとうにっ・・・」 「わかっているわ。ありがとう」  一ヶ月前、初めて会った時もそう言ってくれた。  その時もジャービル王に絡まれていたのを今みたいに助けてくれたのだ。  そうこう話している内に宿泊部屋の前に着いた。 「じゃあ、おやすみアイーダ。明日も楽しみにしてるから」 「おやすみなさい」  ルトを見送った後、素早く大腿に巻き付けたベルトから鍵の束を取り出す。  部屋の鍵と持ち歩いている自前の鎖付南京錠の鍵、計5つを開錠し部屋に飛び込み、再び中から施錠した。
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