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閉め切られたカーテンの隙間から僅かな月明かりが差し込む。
扉から入って右側の、小さなテーブルの上に置いた洋燈に火を灯す。
郷愁色のオレンジが室内を仄かに染めた。それを手に寝台へと歩み寄る。
鏡台に洋燈を置き、盛大に息を吐きながらドサッと寝台に身を投げ出した。
「はぁっ」
宵の翠玉から、素のアイーダに戻る瞬間。
こうすると少しでも淫乱な観客たちの空気から自分を切り離せる気がするからだ。
疲れた・・・。
身体が、というよりも心が・・・。
寝返りを打ち、心の中で呟く。
(前の方が生きやすかった・・・。)
何故、自分はこんな世界にいるんだろう、そんな疑問が毎晩浮かぶ。
ここは奇跡の都と呼ばれる、シェラカンド。
砂漠の真ん中にあるにも関わらず、絶えず湧く聖泉により豊かな資源が生み出されていた。
多くの農作物が収穫され、畜産や酪農に加うるに水産物の養殖も盛んで、そのすべてがシェラカンドの名産品だった。
他国でもシェラカンド産の品は大変評判が良く、高値で取引されている。
また、多くの旅人が長旅の中継地点として利用する為、たくさんの旅籠もあった。
アイーダは旅芸人一座ルンマーンの花形踊り子。
『宵の翠玉』と呼ばれ、北から南、果ては東から西までその名を知られていた。
評判を聞きつけたシェラカンド国王・ヘサームの命で王宮内に一座の仲間と共に逗留し、毎晩宴の目玉として踊り続けている。
多くの国交を結ぶ大国シェラカンド王直々の依頼、踊り子にとってはこの上ない名誉だがーーー。
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